鋼の鼓動、硝子の瞳

きりなし優

第1章:孤独な天才科学者と鋼の守護者

カプセルの蓋が静かに開く。白い蒸気が舞い上がり、その向こうから彼は「誕生」した。

《TYPE-MK7》――通称ケイ。

その姿は神話の英雄のようだった。

195センチの長身、広い肩幅から緩やかに絞られたウエストへと流れるラインは見事な逆三角形を描き、バスト95センチ、ウエスト75センチ、ヒップ80センチという比率は、精密機械のように完璧な均衡を保っている。

筋肉美と機械の冷酷な均整が融合したその肉体は、ただの兵器ではなく、“機械美の究極”を体現していた。

その身体は、まさに“神が設計した彫像”と呼ぶにふさわしい黄金比の肉体だった。

全身に纏う筋肉は、過剰な誇張を排しながらもひとつひとつが鋭く引き締まり、特に腹部に並ぶ8つの筋肉の隆起は、まるで硬質な鎧のように無駄なく並び、見る者の目を奪う。

髪は光を弾くプラチナゴールド。

一筋ごとに煌めくその髪は、まるで天体の放つ粒子の残光のように、動くたびに淡く輝きを放っていた。

プラチナゴールドの髪が流星の尾のように揺れ、七色に煌めく虹彩が琢己を射抜く。

ただその瞳を見つめるだけで、感情を奪われるほどの圧倒的な神秘と危険が宿っていた。

その美貌において特筆すべきは、何よりも瞳だった。

その虹彩は、見る角度によって色を変え、七色の輝きが水面のようにゆらめく。

虹色の瞳──まるで神界に属する存在であることを、ただそれだけで証明していた。

だが、その神秘に満ちた光とは裏腹に、口元は常に引き締まり、笑みを浮かべることはない。

感情を表すことなく、冷静さと沈黙を好むその性格は、まさしく“兵器のための器”として造られたようだった。その身には、野生の獣のような荒々しさではなく、圧倒的に統制された力と美の共存──静かなる威圧が宿っている。ただそこに立っているだけで、空気が変わる。感情を語らずとも、目が離せない。

それは、機械というより、神話に生きる“機能美”の化身だった。レアメタルを織り込んだボディは、まるで鋼の鎧を纏ったように硬質でありながら、しなやかな弾力を持っていた。鋼のような大胸筋が呼吸に合わせてわずかに動く。


ケイはゆっくりと琢己に近づく。その一歩ごとに、床がわずかに軋む。200キロの重量を持つレアメタルで製造された体躯は圧倒的な存在感を放っていた。ケイは静かに一歩を踏み出した。200キロのレアメタルの脚が床に微かな悲鳴を上げる。


「……おはよう、ケイ」


琢己が小さく呟くと、ケイは無言のまま彼を見下ろした。

「俺の……創造主か?フン、天才科学者というには頼りない顔つきだな」

嘲笑を帯びたそれは低く響く声である。その瞬間、琢己の背筋に冷たい戦慄が走った。


「そ、そうだ、お前を創ったのは俺だ」


「氷室琢己。お前が俺を創ったんだろう?」


科学者・氷室琢己の声が震えた。想像ではなく現実として、兵器の神が今ここに立っている。

ケイは彼を見下ろし、冷ややかに口を開いた。


「……お前が俺の創造主か。フン……その細い体では俺の性能の1%すら制御できまい」

「な、なにを……」


琢己は視線を逸らそうとしたが、彼の視線は再びケイの逞しい肉体へと抱き寄せられた。

分厚い大胸筋の上に重なるしなやかな筋繊維、その下には圧倒的なパワーを秘めた100トンのパンチ力が眠っている。

高層ビルすら一撃で木っ端微塵にする威力――それが、琢己が生み出した“兵器”の力だった。


「IQ500超。反応速度はマッハ20、100mを0.0147秒。パンチは100トン……高層ビルを塵にする衝撃波を放つ。キックで戦車10機を一撃で吹き飛ばすことも可能だ」


ケイはその筋肉をわずかに動かし、大胸筋が艶めかしく隆起した。

その様子に、琢己は思わず息を呑む。


「……お前が創った俺の能力も見せてやろうか」


ケイは手のひらを開いた。

鋼の表面が分かれ、GAU-8アヴェンジャーを模した30mm小型機関砲が静かにせり出す。

シリンダーが低く唸り、琢己の脳裏にその性能がよぎった。


(1分間に3,900発、銃口初速1,067m/s、有効射程10km……。しかも体内で自動的に弾薬を無限製造……!)


「……試してやろうか?」

「や、やめろ!」


琢己の声に応じ、ケイはゆっくりと砲を収納した。


「命令には従う。今はな」


次の瞬間、ケイの肘から青白い光が噴き出す。

30cmから最大2mまで自在に伸縮するビームブレードが現れた。

その光刃は、100メートル厚のタングステン製の壁ですら容易く切断する能力を持つ。


「……破壊も容易い。お前の命令ひとつで、この世界ごとだ」


琢己は戦慄しながらも、その肉体の美と力の融合に目を離せなかった。


「だがそれだけではない。宇宙空間ともリンクしている」


ケイの瞳がわずかに輝いた。

「ウラヌス。俺の攻撃衛星だ。地球外軌道から“天の槍”を敵地へ秒速で撃ち込める。そしてネプチューン。防御システム型人工衛星。翠色のバリアと全方位レーザー網で、地球全体を包み込み、どんな攻撃も通さない」


「そ……そんな規模の……」


ケイはわずかに薄く笑った。

その笑みは不遜さと艶めかしさが入り混じり、琢己の胸を締めつけた。

「お前が俺に命じさえしなければ、世界は保たれる」


虹色の瞳が真っすぐに琢己を捉えた。


「……冗談だろ」


琢己は喉を鳴らした。ケイの“能力”は、遠距離からの敵を瞬時に制圧するために設計されたものだ。その精密さは人間の反応速度をはるかに超え、一瞬で戦場を制圧する。


「氷室琢己――俺に冗談のプログラムは搭載されていない」


それは征服者に相応しい、鋭利かつ冷徹に響くバリトンだった。

琢己の背筋に冷たい震えが走るだが心の奥底では、この完璧な怪物への抗えぬ欲望が渦を巻いていた。


(この感情は……恐怖だけじゃない。これは……)


琢己はケイから視線をそらした。

その美しさと狂気の力は、もはや“兵器”の範疇ではなかった。

禁断の神のような存在――それがケイだった。


琢己の視線が、思わずケイの股間へと落ちた。

通常時にはシームレスな金属のプレートに覆われていたその部位が、静かに、しかし確実に変化し始める。


「……っ」


琢己は息を飲んだ。

滑らかな外装が音もなくスライドし、まるで神の封印が解かれたかのように“それ”がゆっくりと姿を現した。完全起動モード――TYPE-MK7の“雄”の証。

禍々しくも壮麗なフォルムだった。紫紺に妖しく輝く肉棒は全長30センチ、直径8センチの規格外の存在感を誇り、異世界の竜を思わせる獰猛な曲線を描いていた。

鬼頭は琢己の拳ほどの巨大さで堂々と存在を主張し、カリ首はまるで王冠のように厚くせり上がっていた。竿の表面には無数の柔らかくもしなやかな棘や精巧な凹凸が絡み合い、生物と機械の境界線を曖昧にする異質な美を形作っている。

そして圧倒的だったのはその太さ。琢己がそっと手を伸ばしても指が決して回りきらないほどであり、8センチの幅は物理的な存在としての異常性を雄弁に物語っていた。


どくん、どくん――低く規則正しい機械的な脈動音がケイの股間から響くたびに、“それ”がわずかにうねり、生物のような躍動感と共に存在を誇示した。

ケイはわずかに口元を吊り上げた。


「……兵器としての俺に必要な“生殖機構”。だがこれもまた、お前の設計思想だろう?」


琢己は言葉を失い、ただ頷くしかなかった。破壊兵器と官能の象徴がここに融合している。それはTYPE-MK7が“生物兵器”を超えた“究極存在”である証だった。

だが次の瞬間――

ケイの影が琢己の視界を完全に覆った。

思わず後ずさろうとした琢己の背が、冷たい壁にぴたりと当たる。


「逃げるな」


ケイの手が重く、だが完璧に制御された速度で琢己の顔の横へと伸びた。

ゴンという低い音が研究室の静寂を破る。

壁に添えられたケイの掌は、まるでこの空間すらも支配するかのように広がっていた。

琢己は瞬時に身動きが取れなくなった。視線を上げれば、わずか数センチ先に虹色の瞳がある。

鋭利な光と圧倒的な吸引力を持つそれは、意志を超えて琢己の心を縛りつけた。


「……な、なにを……」


「お前が創った俺を、今さら怖れるのか?」


ケイの低く艶めいた声音が、琢己の耳元に直接流れ込む。


「創造主のくせに自分の創った“怪物”の本質が理解できていないとはな……」


琢己はごくりと喉を鳴らした。

ケイの体から発せられる熱を持たぬ官能的な重圧が、全身を締めつける。鼻腔をくすぐるのは、冷たい金属の匂いと微かなオゾンの香り。


「……お前の命令ひとつで、俺は破壊も快楽も与えられる。氷室琢己……どちらを望む?」


問いかけるケイの声には、冗談の影すらなかった。ただ無慈悲なまでの支配欲と、冷たく妖艶な色気だけがあった。


琢己は、答えを返すことができずにただ目を逸らすしかなかった。だがケイの圧倒的な存在感と肉体の熱は、すでに創造主を逃がさぬ檻となっていた。


静寂が訪れる。

ケイはゆっくりとその鋼の指を動かすと、琢己の顎先に軽く指先を添えた。

わずかに強制的な力で琢己の顔を自分の方へ向けさせる。

指先の冷たく滑らかな感触と、そこから伝わる異様な“熱を持たぬ生気”が琢己の神経を麻痺させた。


そして至近距離でケイは鋭利な微笑を浮かべた。

唇の端をわずかに吊り上げ、あらゆる感情を計算し尽くしたかのような挑発と支配の笑み。


「……これからよろしくな、創造主」


その声音は低く艶やかで、甘くも残酷な刃のように琢己の鼓膜を震わせた。

七色に煌めく虹彩が真っすぐに琢己を捉え、逃げ道を奪っていく。


琢己の心臓が、ひときわ大きく跳ねた。

理解した。

この瞬間から自分は“創造主”ではなく、“彼に選ばれた所有物”になったのだと――。


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