いたって普通の高校生の話

へひう

第1話 なんでもないただの1日

1話


 何がよくてプライベートの時間を削ってまで休日を他人に使うことができるのか。

中学の頃は本気で心の底からそんなことを考

えていた。


 いやなんなら今でも考えてるまであるな、

うん

 いやだって1人って楽だし、お金も全部自分が使いたいように使えるし、なによりトラブルに巻き込まれない

 そりゃ中学3年の頃は群れて遊びたかった時期がないわけではなかったんだけど。


 ただ中1の朝読書の時間に読んだラノベの影響で孤高を気取っていたこともあり、友人とは疎遠になっていて一つのグループに入るのも一苦労。

 その労力に加え、話している内容がまぁひどい

 なんだよ昨日の夜ご飯がシチューだったって

 10分使って話す内容それかよ

 もはやかわいいな

 いや、こういうところなんだろう

 俺のよくないところ、自分が面白いわけでもないのに他人には理想を押し付けて好き勝手に評価してしまう


 だから俺は高校1年の5月中旬にもなって友人と呼べる間柄の人がいないんだろう。

だからそうやって


 そこまで考えて気怠げにベッドから立ち上がった


「朝から何考えてんだ」


 我ながらネガティブすぎて笑えてくる

こういうのは風呂とか寝る前に考えるもんだろ

 いくら現実を嘆いたって行動しないと何も変わらない

 まぁ変化を求めてるわけではないんで行動する気にもならないんですけどね。


「あお、早く起きな〜」


んん?誰かが俺を呼んでいる?友達かな?

わかってます我が母です。友達いません。


「すぐ行くよー」


 まったく朝から大声を出す羽目になってしまった。朝から疲れたからもう学校休んじゃおうかな。


「バカなこと考えてんじゃないよー」


「なんでわかんだよ。もはや怖いよ。愛情が。」


 そう呟きながら階段を降りて朝食を食べていた。

 堀井家は5人家族で一軒家に暮らしている。

 5人家族とはいえ父は単身赴任で隣の県へ、兄2人はもう巣立ってどこかへ行ってしまったため実質、母と俺の2人暮らしみたいなものである。


「母さん、今日雨だって」


「ねー、なんか気分も落ち込んじゃう。じゃあ私行ってくるから」


「んー」


そんな他愛もない話しを毎日繰り返している。普通の家庭だ。

母さんは朝から起きて朝ごはんと弁当を作って洗い物をし、俺を起こす。

めちゃくちゃ大変だな感謝感謝。


「いってきー」


 誰かがいるわけでもないのに挨拶しながら家を出る。

 家から学校まで徒歩で30分くらいなため、位置的には恵まれている方なのだろう。小耳に挟んだ情報だと学校まで自転車で1時間掛かるやつもいるらしい。そこまで頑張って学校に来るの偉いなぁ鈴木くん。

 教室に着いた頃にはホームルームが始まる手前だった。

 かといってこの時間に入室するのも当たり前になっているため、目立つことも誰かに何か言われるわけでもない。

先生くらいなんか言ってもいいんですよ?


「また今日も遅いじゃん」


 ああ、いたな。なんか最近話しかけてくる人。

 肩を叩かれ振り返るとそこにはテレビの向こう側にいるような美少女、、、とまではいかないものの校内で10本の指に入るくらいの顔面を持つ美少女がいた。指が意外と多いとか言うな。あくまでも個人の見解。

 名前は吉川秋乃だ。たしか。

 席は教室の右から2列目の後ろから2つを俺と吉川が座っている。


「あぁおはよう吉川。この時間はホームルームまでに歩いた分の休憩ができて、教室で過ごす時間を少なくできる1番効率がいい時間なんだよ」


 まぁ3割嘘で朝に弱いってのもあるが。


「おーなんか言っとんな!なんでもいいけど学校に来てくれるだけマシかぁ」


「そうだろ学校に来るだけ偉いだろ。マジ優等生」


「うーんまぁそうだね。偉い、、よ?うん」


「歯切れ悪いな、オーストラリア産の肉かよ」


「何言ってんの?」


「あっすいません」


そんなこんなでホームルームが始まり、特にその後は誰とも話すことなく昼休みになった。


 昼は便所飯とか屋上で弁当を食べる、とかはなく普通に教室にいる。

あんなのラノベやアニメだけだ。

やってるやつはやってるんだろうけど、本当に人の目を気にしてるやつは一人で弁当を食べることよりトイレに弁当を持って行ったり、屋上に行こうとしてるところを見られる方が恥ずかしいんだよ。

やっぱりラノベは嘘ばっかり。


「あれ?1人なの?」


吉川が後ろから急に話しかけるもんだからびっくりしちまったよ。

 てかいつも1人だろそんなに俺の存在感ない?


「いつもそうだよ。吉川は今日はここで食べるのか?友達いないの?」


「いるよ!!でも優菜ちゃんが今日は休みなの。てか屋上雨だから開いてないし」


「屋上で食ってるのか」


ここにいたわ。ラノベやっぱすげぇ。


「風が気持ちいいし、気分も上がるし楽しいよ?」


 そんな「一緒にどう?」のテンションで言われてもなぁ

 行きたくなっちまうじゃねえか


「へーそれはいいかもな」


 もちろん行くわけないのでてきとうに返事をするが。


「てか堀井って家どこ?登下校中によく歩いてるの見かけるんだけど私と家近いとかある?」


「いや吉川の家がどこにあるかわからない以上なんとも言えないけどイニシャルマーケットから歩いて5分くらいのとこに住んでるよ」


ちなみにイニシャルマーケットとはスーパーマーケットのこと


「え!マジ!」


マジマジ


「私もそこら辺だよ。やっぱり家近くなんだぁ。うれしいね。」


「そうだな。」


なにこの会話なんかむず痒い


「じゃあ俺飯食いたいから」


「はーい後ろにいるねー」


「うん」


そんな弱々しい返事しかできない自分に嫌気が差してくるがそんなことよりも久々にクラスメイトと会話したことに一抹の嬉しさを滲ませていた。


 午後も眠ったように授業を受け、少し慣れてきた高校生活の1日を終えるため、家でご飯の後に風呂に入っているが思い出すのはやはり昼のことだろう。


「ひさしぶりにクラスと人と話したなぁ」


 しかも女子、しかも吉川。まぁ前の席だし喋る機会なんていくらでもあるか。

 そんなことを考えてるが実際、吉川との会話が楽しかったのは事実で風呂で独り言を漏らしてしまうくらいには気分が高揚していたのだが。







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