第9話 お姉さんと焼肉①

 日曜の夕方。

 ソファにだらだら寝そべりながら、何ということもない時間を過ごしていると──ぶるぶるとスマホが震えた。


 水萌さんからの着信だ。


「もしもし」

『晴翔くん……詰んだ……』

「乗っけからどうしたんですか。詰んだって、人生?」

『広義では、そう……』

「……ちなみに、何があったんです?」

『焼肉……予約しちゃってたみたい……酔った勢いで……』


 詰んだとか言うから今度はどうしたのかと身構えたが、別に大したことじゃなかった。


 いや、まだ安心するには時期尚早か。


 予約に関して何かしら絶望してるってことは、例えばミスで五十人分の予約をしちゃったとか、そういった類のやらかしの可能性は捨て切れない。


 一先ず話を聞いてみるしかないか。


「へえ、焼肉ですか。いいじゃないですか。あれですかね、最近流行りの一人焼肉的な」

『そ、そう。私一人で……一人焼肉……カップル限定の……特上コース……』

「ちょっ、なんで一人でカップル限定予約をっ!?」

『うわぁん! だって! 酔ってたんだもん! 酔うと孤独が全方位から押し寄せてくるじゃん!? そしたらカップルコース予約しちゃうじゃん!?』

「じゃん言われても……」


 孤独を感じるのはまだしも、カップルコースを酔った勢いで予約しちゃうのはよく分からない。


「カップル限定ってことは、ひょっとして二人分の予約がマスト?」

『うん、そういうこと。それでどうしても男の子を誘わなくちゃいけないの。女の子だとカップル認定されないみたいだから』

「令和の時代にそのジェンダー配慮は大丈夫か……」

『見つかる人に見つかったらアッチッチだね』


 いろいろと物議を呼びそうだ。


「あの、水萌さん。素朴な疑問なんですが、カップル限定コースをキャンセルして、普通に一人客として足を運ぶというのは考えてないんです?」

『キャンセル料、二万円なんだ……』

「高い勉強代になりま──」

『晴翔くぅん……! お姉さんをいじめないで? 汗水垂らして稼いだお金をドブに捨てたって思いたくないの……』

「そ、そう言われても……」

『ご飯もう食べたの?』

「……まだっすね」

『じゃあお姉さんと一緒にお肉焼かない? もちろん奢るからさ』


 どうやらそういうつもりで電話をかけてきたということらしい。

 今回もまた、オレと水萌さんを繋ぐのは酒のやらかしなのか。


 タダで美人かつ面白いお姉さんと焼肉が食べられるなんて、断る奴がいるなら見てみたいものだ。


「何時からです?」

『晴翔くんありがとうっ! えとね、三十分後!』

「早いなっ!?」


 ──そんなわけで、オレの自堕落な日曜は急転直下。肉の世界へと召喚されたのだった。

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