第4話:割と全員ノリがいい

『◯※×#%>€¥〜!』

 

「……何か話しかけてきているわね」

 

「だろ? 話しかけてはくるんだけど意味がわかんねえんだよ。敵意は感じないし、怪我しているからどうしたもんかと思ってな」

 

 カルロスの言うように、彼女は足にそれなりに大きな怪我をしていて歩けないようだった。

 なんか凄く痛そうな表情をしているね。そういう趣味の人が喜びそう。僕は興味ないけど。

 

「フェルナンドさん、回復魔法みたいな都合の良い魔法とかってあったりしませんか?」

 

「あるにはある。……ただ『ライトニング』の時にも言ったが、君たちに旧世界の魔法を見せるのはあまり良くないとは思うのだが……まあ、致し方なしか」

 

 僕はダークネスの要請に対してこれ見よがしに溜息を付き、エルフらしき女性に近付く。

 

 かあーっ。仕方ねえなあーっ。

 ほんとは見せるべきじゃねえんだけどなーっ。

 ……この芸風、いつまで続けられるかな。

 

「ん? 旧世界の魔法って?」

「後で話すから今は静かにして」

「なんかオレの扱い酷くねえか?」

 

 近くでコントが繰り広げられている気配がしたけど、今は構っていられない。何よりあっちはまだ臭いから近付きたくない。

 

「傷よ、癒えよ『ヒール』」

 

『……○〆¥%!』

 

 光が差し、エルフっぽい生物の怪我が癒えていく。

 

 人間用の治癒魔法が効いて良かった。

 簡単な魔法で、人の魔法を真似するような知性ある魔獣とかも使ってくるような物だから大丈夫だろうとは思っていたけど。

 

『◯※×#%>€!!』

 

 傷が癒えた女性……近くでまじまじ眺めてみると人間でいう所の15〜6歳くらいで、見た目の整った可愛らしい少女に見えるけど、とにかく彼女が何かびっくりしたような表情をして、声を上げる。

 どうやら襲っては来ないみたいだ。一応身構えていたけれど、良かった。

 いやまあ、いくら僕が英傑に比べたら凡人とはいえ流石にゴブリンに遅れをとるような輩にやられる気はしないけど、念の為。

 何より治した直後に殺すのは単なる労力の無駄でしかないからね。

 

 ──実は、完全には治さないようにしようかな……とか思ったのは秘密だ。そんなしょうもない小細工を弄する奴は意味深でも何でもないからね。

 

「治ったはいいけれど……これ、どうしましょうか?」

 

「うーん。ようやく出会った友好的……かどうかはわかりませんが、少なくとも意思疎通を図る様子はありそうな貴重な生物ですからね。見た目もやたら人間に近いですし」

 

「なんか、如何にもエルフ! って感じだよな。あんまり自信はねえけど」

 

 え。もしかして僕、カルロスと同じレベルの思考なの? 

 それは凄く嫌なんだけど……

 

「暫定でエルフと呼称しましょう。ゴブリンや悪魔だって似たような物ですし。……一応ですが、フェルナンドさんに心当たりは?」

 

 当然僕は首を横に振る。

 

「ですよね……しかし、このままでは埒が開かないのも事実。勿体無いですが、特に出来ることはなさ……」

 

 ダークネスが締めようとした矢先、エルフが立ち上がって。

 

『※*%#%>€!』

 

 こっちに向けて手招きをしながら奥に進み出した。

 

「……着いてこいって言っていそうね?」

 

「そんな感じだな。ダークネス、フェルナンド。どうする?」

 

 カルロスが振ってきたので僕はダークネスの方を見つめる。

 これ見よがしに君が決めろ、と言わんばかりに。

 

「……そうですね……次の人は遠いんですよね?」

 

「ああ。ここからだと1日かかるだろうな。勿論急ぐならば変わるが、それをする必要はあるまい」

 

「なら、今から急いでもあまり意味はないでしょうし……一旦着いていきましょうか。最悪、罠を考慮して……アリスさん、すみませんがよろしくお願いします」

 

「構わないわ。カルロス、前衛はお願いね」

 

「ああ! 任せておけ」

 

 こうして僕たちはエルフに着いて行く事に決定した。

 

 まあ、100英傑ならそうするよね。

 逆にここで着いていかない選択肢を取ったとしても、それはそれで実に面白い事だと思うから良かったのだけれど。

 

 

 道中。

 

 

「……言っていなかったけど、実はオレ、記憶がねえんだ……」

「ええ、そうでしょうね」

「知っていますから、大丈夫ですよ」

「!? オレとしては結構重大発表をしたつもりだったんだが……」

「ラインハルトのくだりがあったじゃない」

「ああ、アリスさんはあの戯言、一応覚えてあげていたんですね」

「いや、あの……はい。すみません。オレが悪かったです……」

 

 うん。コントが開かれているようだけど、今はエルフに注目しないといけないからね。

 それにしても、ダークネスが名前に対して敏感になってるの面白いな。彼って少し年齢低いし一見丁寧そうに見えてかなり強気だよね。

 

 

 ──そんなこんなで。

 

 

「……村があるわね」

 

「そうですね。高い知能を持つとは思っていましたが、こうなると人とほとんど変わらない……というより、まさしく創作物で言う所のエルフのような印象を受けます。……何故ぼくにそういった記憶は残っているのかも疑問ですが……」

 

 僕たち4人は少女に連れられた結果、驚くべき事に村に到着した。

 人間以外の生物が村を建てるなんていう、あり得ない事態が目の前で起きているのだ。

 ……たったの1000年で、ね。

 

 木で出来た家がまばらに存在しており、幾らか住民の姿も見える。

 人数はそこまで多くないみたいだけど、全員が当然のようにエルフであり、僕としては非常に興味深い光景である。

 

 道中気になる点として。

 

「結局、あの娘が案内を始めてからここまでゴブリンに出会わなかったわね。あれだけ沢山居たはずなのだけれど」

 

「そうですね。正直案内してくれるのはありがたいですが、彼女に先頭に立たれるのは内心ハラハラしていましたよ。ゴブリンを見なかった理由は気になりますけどね。……今日は気になる事ばかりというか、最早それしかないくらいですね……」

 

 実はまだ初日だしね。

 初っ端からこんなペースで話が進んで凄いなと僕も思うよ。

 

「ん? そうなのか? 確かにオレが戦った場所には多かったけどよ、それ以外の場所にはゴブリンはそこまで多くなかったぞ?」

 

「そうなんですか? そうすると、偶然ぼくたちが通って来た場所の近くに巣穴でもあったのかもしれませんが……ふむ」

 

 喋るのを止めて考えに耽り出したダークネス。

 なんか色々と裏を考えていそうだけど、僕としては多分そこまで裏はない気がする。大体は偶然の産物なんじゃないかな? 

 

 カルロスはエルフの村に目線を戻して。

 

「それにしても、一体何を話してるんだろうな?」

 

『※*%#%>€!』

『÷・→×€÷+!』

『+×<〆○#¥!』

 

 うん。さっぱりわからん。

 何やら助けた少女に対し、心配して涙を流したり、やたら嬉しそうな顔をしていたり、僕たちを指さして来たり色々しているように見えるけど、言葉が全く聞き取れないからね。

 

「もうしばらく待って、このままどうしようもなければ去りましょうか。それとも、助けたお礼として武器や生活道具くらいは拝借していく?」

 

「アリスって結構逞しい性格してるよな。見た目はエルフたちよりずっと美人なくらいなのに」

 

「フッ……前と同じだな。それでこそアリスだ」

 

「……あなたたち、後で覚えておきなさいよ」

 

 僕たちがこんな風に村の入り口で楽しく雑談をしていると。

 

「あら? 何か他のエルフとは少し格好が違う娘が出て来たわね」

 

 アリスが言う通り、他とは違って長い杖を持ち、これまた長い帽子を被った魔法使いっぽい幼女エルフが出て来た。

 見る限りどうやらこっちに向かってくるらしいけど。

 

「小さいけど杖を持ってて魔法使い! って感じがするな」

 

 くっ……カルロスの癖に僕と同じ思考を……許せぬ……!! 

 なんて思っていると、その子は僕たちの目の前まで来てから、杖を地面に突き刺して。

 

『♫〜♫〜』

 

「……魔法? 殺す?」

 

 凄いな、アリス。

 相手が詠唱らしき物を始めたや否や、間髪入れずに殺害が選択肢に入るとは。

 

 ──まあ、僕も割とそうしようかと思ったけど。

 伊達に終末世界を生き抜いて来てないからね。

 

 ただ、アリスには記憶がないのにそれをしようとするなんて……やはり大した奴だ。

 

「待ってください、2人とも! 敵意は感じませんから!!」

 

「そ、そうだぞ! 仮に何かされたらオレがどうにかするから待てって!!」

 

 さっきまで黙っていたダークネスと前衛としての役割を思い出したカルロスが慌ててアリスと僕を止める。

 

 しまった。つい殺意が漏れ出てしまっていたか。

 旧世界での感覚がなかなか抜け切れないとはいえ、これでは意味深な男の名折れ。深く反省しなければ……

 

 なんかあの少女も詠唱をやめて引き攣ったような表情をしてるし。

 

 僕は反省しながらアリスの隣、つまりカルロスの後ろで少女をしばらく眺めていると、彼女は詠唱を再開する。

 しばらく待っていると魔法をかけ終わったらしく。

 

 

『……これで通じるか? 異国の旅人よ』

 

 

 なんて話しかけて来た。

 

「……翻訳魔法? 随分と便利な物があるのね」

 

「面白い。私が知る限り旧世界にはなかった魔法だ。やはりこうでなくてはな」

 

 僕は頷きながら横に居るアリスに話す。

 これを僕は待ち望んでいたんだ……感を存分に出す意味深ムーブだ。

 

「ふうん……そこまで難しそうな魔法には見えないけれど……まあ、今はいいか。とりあえず2人に会話を任せましょう」

 

 僕とアリスはさっきの件で後ろに居るからね。

 まあ、元から僕は前に出て会話なんてする気はないけど。

 何故なら僕は意味深な男だから。

 

『ワシの名はミルネン。この村の村長をやっておる。小鬼共からワシの孫娘を助けてくれた事、感謝する』

 

「……ん? 孫娘……? じゃあこの見た目でば……「いえ! こちらこそ、村まで案内してくれて感謝しています!!」」

 

 うん。どうやらカルロス君は交渉力0みたいだね。

 知ってた。

 今までは僕以外賢い人しか居なかったから、アホ枠が加入してくれて嬉しいよ。

 

『見ての通り、何もない村じゃ。礼になる物もないが……もてなさせてくれぬか?』

 

「でしたら、武器はありませんか? 小鬼との戦いで失ってしまって……」

 

 おお、自然と嘘をついたな。

 15歳くらいの少年の見た目をしていながら、やはり強かな男だ。

 ゴブリンの事もロリババ……村長の呼称に即座に適応して小鬼って呼んでるし。

 

『武器、か。すまぬがまともな物はないぞ。質が悪くても構わないならばあるが……』

 

「それで問題ありません。後は、生活用品も出来れば頂きたくて……」

 

 このようにして、村長とやり取りを続けるダークネス。

 

「どうやらダークネスに任せれば大丈夫そうね」

 

「フッ……あのダークネスが交渉役とはな。感慨深い物だ」

 

 僕が意味深な事をアリスにだけ聞こえるように、少し小さな声で言うと。

 

「……落ち着いたらその辺りの話、聞かせてくれるのよね?」

 

「例えば私たちが1000年前の過去から現在に跳んで来たなどの話だな? 問題ない」

 

「ほんっと! そういう所!! わざとやっているわね!?」

 

「うおっ! アリス急にどうした!?」

 

 ああ〜僕の意味深な言葉で他人を右往左往させるの、楽しすぎるんじゃ〜! 

 

「……ぼくが交渉する背後で、何か聞き逃してはいけないような話がされている気がしますが……とにかく、話はまとまりましたよ」

 

「ふむ、どうなったのだ?」

 

「……ほんと、後で覚えておきなさいよ……」

 

「雑魚脇役みてえな事言ってんな……わ、悪い! そんな事ねえ! 勘違いだった!!」

 

 ……ふむ。

 こうして見るとダークネスやカルロスだけでなく、アリスも実はいじられキャラなのかもしれない。

 旧世界でアリスをいじる命知らずなんて当然居なかったから、なんか新鮮な気分だ。……何故か僕は頻繁に呆れられてはいたけど。

 

「武器と生活用品、簡易的な地図に一晩の寝床も恵んでくれるそうです」

 

「至れり尽くせりじゃない。どうして?」

 

「アリスが押し流したあのゴブ……小鬼の大群、放置していたらこの村を滅ぼしていたらしいんだよ。今日明日の話ではなかったっぽいんだが、1月は保たなかっただろうとかなんとか」

 

 ふむ。

 カルロスのその話、少しの疑問が出るな。

 

「奴らがそこまでの脅威かどうかはともかく、1月経つまでは防ぐ手立てがあったの? 1ヶ月ってそれなりに長いけれど」

 

『ワシの結界魔法じゃ。恐ろしいまでの魔力と常人ならざる美しさを持つ旅人よ』

 

 おお、急にぬっと出て来てびっくりした。

 

 しかし、この発言。

 つまり村長はアリスの魔力はわかるのにダークネスの魔力はわからないのか? 

 僕の見立てだと2人の魔力量にはほとんど差が……おっと。情報を出し過ぎたね。危ない危ない。

 ただ、そうすると一体何故……あ。

 

 そういえばさっき村長が翻訳魔法を詠唱した瞬間にアリスは思いっきり魔法を撃つ準備してたな。それに、僕たちが助けたあの少女エルフはアリスの水魔法を遠目に見ていたか。

 

 ……後は、美的感覚も僕たちのそれと近しいようだ。

 アリスは僕の知る限りでも2番目か3番目に綺麗な女性だからね。

 非現実的な程に美しき『至天の銀魔女』は、旧世界において数多くの男も女も虜にしていた。

 

 エルフたちもかなり見た目に優れているし、目の前の村長はその中でも一際可愛いと思うけど、アリスには遠く及ばない。

 ──エルフと僕たち人類の美的感覚が近いというのもまた面白い話だが、今は話を聞くべきだろう。

 

「結界魔法……ね。また随分と便利そうな魔法。もし良ければそれと翻訳魔法を教えて貰う事は可能かしら?」

 

『すまぬが結界魔法は秘中の秘。防衛の要である以上、恩人とはいえ教えるわけにはいかぬ。しかし翻訳魔法ならば可能じゃが、お主らは明日には発つのじゃろう? 1日で習得できるような魔法ではないぞ』

 

「まあ、触りだけでも知っておきたいから」

 

 そして。

 

 

「やっぱり簡単だったわね」

 

『お主は一体何者じゃ……』

 

 

 即堕ち2コマ止めろ。

 

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