第1話 鏡の中の世界

 

 王城の中央階段の踊り場についての噂。

 王城内の2階。南に位置している中央階段の踊り場にある大きな鏡を深夜1時に見ると自分の未来が見えるという。


 そんな噂を侍女の会話を通して聞いた私は噂の中央階段の踊り場へと行く為に警備兵の目を盗んで部屋を抜け出したのだ。


 そして噂の中央階段の踊り場へと辿り着いた私は1時になるのを待ち。

 噂の時刻。1時になった時に鏡が光り始めて、何とか鏡を見ようとしたがバランスを崩して鏡に手をついた瞬間。


 すり抜けるような感覚と共に私の視界も一瞬、眩しい光と共に白く染まり、目を開けると緑豊かな木々が立ち並ぶこの森林にいたのだ。


「何か小説にありそうな展開ね」


 現実的に考えて鏡の中に入るなんてことはあり得ない話だが。

 今に至るまでのことを思い返し冷静に考えてみると私は確かに鏡の中に入ったのだと思わざる得ない。


「さて、これからどうしましょうか……」


 目の前に広がる景色は緑豊かな木々と土から生えている雑草が所々にある地面が私の青い瞳に映る。

 この場所が鏡の中の世界であるのならこの世界で生きているであろう者もいるはずだ。

 

 とりあえず今はこの場所に留まるのではなく、散策してみた方が良さそうな気がした私は

ゆっくりと森林の中を歩き始めた。


「この世界にいる人に出会えれば、元の世界に帰る方法を聞けるかもしれない」


 森林の中を歩きながら一人そう呟いた私の頭上からくくっという笑う声が聞こえてくる。


「だ……誰? 誰かいるの?」


 足を止めて、笑い声がした頭上を見上げても問い掛けても何もおらず、反応もない。

 私は不気味に思いながら早歩きで再び森林を歩き出した。


「くくっ、ねえ、君さ〜、よそ者だろう〜?」


 先程、笑い声と共にやはり頭上から中音の男の声が私の耳に聞こえてくる。

 しかし、先程、私が声を掛けても反応などしなかったので私も反応せず無言を貫くことにした。


「……」

「無視かい〜?」

「……」

「僕は元の世界の帰り方を知っているんだけどなぁ」

 

 男のその言葉に私は思わず足を止めて、声がする頭上を見上げる。

 頭上を見上げても先程と同じように何もいないが。

 

 私には見えないだけで確かに頭上にいるであろうその人物に声を掛ける為に私は声を掛ける為、口を開いた。


「元の世界に帰る方法を知っているって言ったわね?」

「ああ、知っているよ〜」

「それなら教えてちょうだい! 元の世界への帰り方を」

「教えてもいいけど〜、君一人では帰れないよ。帰るには仲間が必要だ」


 頭上にいる見えない人物はそう言い終わるのと同時に姿を現した。


「初めまして、お嬢さん。僕はこの森に住み着くチャシャ猫のレナートだよ〜! よろしくね。お嬢さん」


 レナートと名乗った紫色の髪に緑の瞳をした若々しい青年は頭に猫耳がついている所以外は

私と何ら変わらない人間の姿をしている。


 私は目の前のレナートと名乗った猫耳がついている青年を上から下まで流し見てから、レナートの顔を再び見ると、レナートは可笑しそうにクククッと笑っていた。


「何がおかしいのよ?」

「いや、お嬢さん、あまりにも無表情で俺を上から下まで見るから可笑しくてね」

「そう、それよりそのお嬢さんっていうの辞めてくれないかしら? 私の名前はアリシア・ラドリーティよ」


私が自分の名前を名乗れば目の前にいるレナートは私に優しく笑いかけて『わかったよ。じゃあ、アリシア、改めてよろしくね〜』と返してくる。


「ええ、こちらこそよろしく。レナート」

「うん、じゃあ、行こうか」

「え? 何処に行くのよ?」

「元の世界へ帰る為に協力してくれそうな人の所だよ〜」


レナートはにこやかにそう言ってから私の右手を優しく掴み優しく握ってくる。

 突然、レナートに手を握られた私は思わず握られた手を離そうとしたが、手を離すつもりがないのかレナートは強く私の手を握ってきて。


「はぁ、レナート、貴方って結構、強引なのね」

「くくっ、そうかなぁ〜」


 日の光が木々の隙間から差し込む穏やかな森林の中を私はレナートに手を引かれて歩き始めたのであった。

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