第16話



「失礼いたします」

「どうぞ」


 応接間から談話室のような場所へと移動し、ルシアを迎え入れる。フィリップは、すぐそばの談話室で待機している。この部屋には、私とルシアの2人のみである。


「急にお呼びだてして、ごめんなさい」

「いえ」


 淡々と返すルシア。感情が読めず、話の展開に迷う私。転生前はリアルでの人付き合いを諦め、ボッチを貫いていた。そのため、いざこうして話すとなると、話題提供や段取りに困ってしまう。


「とりあえず、おかけになって」


 ペコリと頭を下げ、私の正面のソファに腰を下ろすルシア。膝に重ねられた手と、一直線に伸びる背筋。きゅっと締められた口。誇り高さのようなものを、勝手に感じ取ってしまう。


「…きれいだわ」

「え…?」

「あなた、かっこいいですわね」

「……」


 思わず漏れた感想に、戸惑うルシア。反応に困っている表情は、先程までの緊張感を纏った精巧な作り物みたいな気高さとは一転し、とても人間味に溢れていた。なんかルシアと話しだしたら、肩の力が抜けていく。私はただ、自分が感じるままに話すことにした。


「その戸惑う姿も、かわいくて素敵だと思います」

「……」

「どちらも素敵ですわ」

「……」

「あ、先ほどは、ミルクをありがとうございました」

「…いえ…」


 ルシアが入室してから、なんか忘れていると思っていた。そうだ、お礼言うのを忘れてたわ。言ってスッキリ。緊張もほどけて、ニッコリである。良かった、会話もできたし。思いを口にして、伝えた。にしても、改めてルシアは美しい顔立ちである。将来は、実写版のシンデレラになれそうな、華奢さと色白さである。いやー、麗しい。眼福だ。仲良くなったら、いろいろな服を着て欲しい。絶対かわいい。私は頬杖をつきながら、ルシアの顔を鑑賞する。ひゃはー、幸せ。ルシアは、ツンデレというかクーデレって感じかな?それとも、


「アイリーン様」


 フィリップの声に、ハッとする。目の前では、困り眉でオロオロしているルシア。私の傍らにはフィリップ。


「…どうされましたか?」


 いきなり隣に現れたフィリップに、思わず聞く。


「いや、急に部屋が静かになりましたので。気配はございましたが、様子を見に参りました。」

「あ…、ルシアとお話するのを忘れておりましたわ」

「…私も同席させていただいても、よろしいですか?」

「あと5…、いや10…、…15分待っていただけません?」

「…かしこまりました。ご用の際は何なりと」


 私の意思を尊重し、退室してくれるフィリップに感謝する。…さて、どう話そう。


「ルシア」

「はい」

「男同士の恋愛をどう思われますか?」

「はい、…男同士…?」

「そうです。殿方同士の愛し、愛されですわ」

「…え?あっ、…え?あの、それは、その…どういった類いの…?」

「あ、そうですわよね。ひとえに腐といっても、様々ありますものね。私はこれといった地雷はございませんが、グロは苦手ですわね。とりあえず、主人公達には最終幸せになってほしいと思っておりまして、そういった意味ではハッピーエンドが好きでございますの。まあ、すれ違いや切ない系も嗜んではおりますので、何でもいける口ではあります。あと、基本は攻め固定で、リバは場合によりけりでございますわ。そんで好きなカップリングに関しましては、男顔×女顔でして、スパダリと、見た目キュルキュルなのに中身は男前のギャップが好物でございますわ。ほんと尊い」

「……」

「ルシアはいかがですか?」

「え?あ…あの…、大変いいと…思います…」

「そうですか!ぜひともそのうちルシアの推しカプやシチュなんかもお話していきたくて、あ、解釈違いとかは私の場合はないんですけれども、ルシアの地雷をお伺いしておいても良いですか?リバとか同担拒否とかいろいろ知っておきたいと思っておりまして」

「…特には…ございません…」

「そうですか!では、先ほどいたフィリップと、うちのお父様に関してなのですが」

「ちょ、ちょっと待ってください!アイリーン様!!!!」


 バンッと音がして、慌てた様子のフィリップが部屋に入って来る。私は目をぱちくり。前に座るルシアは、フィリップの登場にホッとしているようだった。

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