ワンコインキラー:ケモミミ少女たちの闇と願い

くろねこ教授

第1話 500円の願い(前編)

【この作品は半社会的要素や、暴力的な場面、性的な場面、倫理的に問題のある場面も多数出てきますが、作者に政治的意図はありません。

 大人向けのファンタジーとして書いています。】



 ケモミミ渋谷の夜は、万華鏡のように煌めくネオンの洪水と、途切れることのない雑踏の音の渦に飲み込まれていた。ケラケラと甲高い笑い声を響かせる狐耳のギャルたちが、スマートフォンの画面を覗き込んではしゃいでいる。千鳥足の猫耳のサラリーマンが、呂律の回らない鼻歌を夜空に放り投げ、人波を縫って消えていく。あるいは、完璧なアングルを求めて自撮りに熱中する兎耳の学生グループが、ポーズを変えるたびに歓声を上げる。そんな目まぐるしい喧騒の海の中を、結菜(ゆな)は、まるで嵐の中の小鳥のように、小さな体をさらに縮こまらせて歩いていた。


 柔らかな栗色のショートボブが、けばけばしい街灯の光を受けて微かに揺れる。その下からのぞく犬の耳は、不安げに力なく垂れ下がり、時折ピクピクと小さく震えていた。縁が少し赤らみ、潤んで揺れる大きな琥珀色の瞳は、行き交う人々の無関心な表情や、猥雑なネオンの光を映しては、怯えたように揺らめく。そばかすが愛らしく散った白い頬は、夜の冷気か、それとも内なる緊張か、ほんのりと上気していた。彼女が身に纏うのは、ピンクと白のフリルが幾重にも施された、典型的なファミリーレストランの制服。しかし、その制服は、結菜のあまりにも華奢な体には不釣り合いなほど大きく、まるで借り物のようにだぶついて見え、彼女の頼りなさを一層際立たせていた。その小さな肩は、見えない重圧に押し潰されそうに丸まっている。


「はぁ……今日も、また遅くなっちゃった……」


 消え入りそうな細い声で呟くと、結菜は白い息と共に溜息を吐き出し、冷え切った両手で制服の袖をぎゅっと握りしめた。手に持ったコンビニのビニール袋がカサリと乾いた音を立てる。中身は、見切り品で安くなっていた菓子パンが一つだけ。それが今夜の彼女の夕食だった。腰のあたりで心細げにくるんと丸まった犬の尾は、まるで彼女の不安を代弁するかのように、力なく左右に揺れていた。16歳。このケモミミの喧騒が渦巻く大都市・東京で、彼女はたった一人で暮らしている。まだ幼さの残るその小さな肩には、学費と日々の生活費という、あまりにも重い現実がのしかかっていた。そのために、彼女は「ファミリーキッチン渋谷店」という名のレストランで、学校が終わると毎日、遅くまでアルバイトに励んでいる。しかし、そのバイト先こそが、今、結菜の心を少しずつ、しかし確実に削り取っていく元凶となっていた。


 時折、結菜はふと足を止め、ショーウィンドウに映る自分の姿を見つめることがあった。疲労と不安の色が濃く滲む顔。少しでも明るく見せようと、朝、鏡の前で一生懸命作った笑顔は、もうどこにも残っていない。制服のリボンは少し曲がり、犬耳はしょんぼりと垂れたまま。こんな姿で、明日はちゃんと「笑顔で」接客できるのだろうか。そんなことを考えると、胃がきりきりと痛んだ。


 かつて、結菜には温かい家庭があった。両親と、年の離れた優しい兄。犬耳を持つ彼女を、家族は、たくさんの愛情を注いでくれた。しかし、数年前の事故が全てを変えた。両親は他界し、兄も大きな怪我を負い、遠方の療養施設に入ってしまった。まだ中学生だった結菜は、伯父夫婦に引き取られたが、そこでは常に肩身の狭い思いをしていた。彼らに迷惑をかけたくない一心で、高校進学と同時に一人暮らしを始め、生活費と学費の全てを自分で賄う道を選んだのだ。しかし、ケモミミの特性を持つ未成年が、この大都会で安定した仕事を見つけるのは容易ではない。いくつかのアルバイトを転々とした末に、ようやく採用されたのが、今の「ファミリーキッチン渋谷店」だった。時給は決して高くないが、賄いが出るという条件が、日々の食事にも事欠くことのあった彼女には何よりも魅力的だった。最初の頃は、新しい生活への希望と、必死に働く充実感で満たされていた。だが、それも長くは続かなかった。


 駅前の雑踏を抜け、人通りの少ない裏路地へと続く薄暗い道へ差し掛かった時、結菜の敏感な犬耳が、すぐ近くで交わされるヒソヒソとした会話を拾った。派手なメイクを施し、制服を着崩した狐耳の女子高生二人組が、スマートフォンを片手に何やら興奮した様子でキャッキャと声を弾ませている。

「ねえ、マジで知ってる? 『ワンコインキラー』ってやつ!」

「え、なにそれ? 新しい動画配信者か何か?」

「ちっがーう! なんでもね、たった500円で、ムカつく奴とか、消したい相手を、マジで殺してくれるんだって!」

「はあ!? ウソでしょ、そんなの! 都市伝説ってやつじゃん?」

「いやいや、それが本当なんだって! SNSでも結構騒がれてるし! あそこのさ、ほら、ちょっと裏に入ったとこにある古い神社あるでしょ? あそこに500円玉を投げるだけでいいらしいよ」

「へえ……でもあそこって、賽銭箱すらなかったじゃん? いつも薄暗くて、誰も行かないようなとこでしょ?」

「だからいいんじゃん? 誰にも見られないし。賽銭箱がないから、地面に直接、ぽいって投げるだけで依頼完了なんだって!」


 その言葉を聞いた瞬間、結菜の垂れていた犬耳が、ピーンと微かに緊張して持ち上がった。

 ワンコインキラー……? たった、500円で……?

  馬鹿げた噂話だ、きっと。そう頭では理解しようとしても、結菜の心臓は、まるで冷たい手で掴まれたかのようにドクンと大きく跳ね、小さな波紋が広がっていくのを感じた。

「そんなの……本当に、あるのかな……」

 思わず漏れた呟きは、誰に聞かれるでもなく夜の闇に吸い込まれていった。結菜は、逃げるようにその場を離れ、家路へと足を速めた。しかし、彼女の脳裏には、先ほどの女子高生たちの言葉がこびりついて離れない。そして、それと同時に、鮮明に浮かび上がってきたのは、忌まわしいバイト先の店長――佐々木の顔だった。脂でギトギトと光る額、常に卑屈な薄ら笑いを浮かべた唇、そして何よりも、獲物を品定めするかのように、ねっとりと絡みついてくるあの視線。思い出すだけで、結菜の胸は嫌悪感と恐怖で締め付けられ、呼吸が浅くなるのを感じた。


 佐々木からの執拗な「指導」という名の嫌がらせは、結菜がこの店で働き始めてから半年ほど経った頃から、徐々に、しかし確実にエスカレートしていった。最初は、些細な仕事のミスを針小棒大に騒ぎ立て、他のスタッフの前で結菜を執拗に叱責するだけだった。だが、次第にその内容は陰湿さを増していく。閉店後の誰もいない店内で、二人きりになる状況を作り出し、「接客指導」や「身だしなみチェック」と称して、不必要な身体的接触を繰り返すようになったのだ。


「結菜ちゃんは、もっと笑顔を練習しないとねえ。ほら、口角をこう、きゅっと上げて」

 そう言いながら、彼の指が結菜の頬に触れ、そのまま耳元まで滑り、犬耳の付け根をいやらしく撫でる。その度に、結菜は全身の血の気が引くような恐怖と嫌悪感に襲われ、体が石のように硬直した。

「声が小さいよ。お客様に聞こえないだろう? もっとお腹から声を出す練習だ。私が手伝ってあげるから、ここに立ってごらん」

 そう言って、背後から彼女の体に密着し、腹部に手を回してきつく抱きしめる。吐息が耳にかかり、彼の体臭が鼻をつく。結菜は必死で抵抗しようとするが、大人の男の力には到底敵わない。涙を堪え、ただ時間が過ぎるのを耐えるしかなかった。


 ある時は、更衣室で制服に着替えている最中に、突然ドアが開けられたこともあった。

「おっと、失礼。忘れ物をしてしまってね」

 佐々木はそう言いながらも、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 結菜は小柄だが、胸は大きい。ウェストは狭まり、ヒップは高い。その若々しい肉体を白い下着が包む。

 いやらしい視線で結菜の半裸の体を頭からつま先まで舐めるように、佐々木は見つめていた。

 結菜は恐怖と羞恥で声も出せず、ただ震えるしかなかった。

 こうした出来事が繰り返されるうちに、結菜の心は徐々に蝕まれていった。バイトへ向かう足取りは鉛のように重く、店長の顔を見るだけで動悸が激しくなる。夜も悪夢にうなされ、眠れない日々が続いた。誰かに相談しようにも、この都会で頼れる人は誰もいない。もしバイトを辞めてしまえば、たちまち生活は立ち行かなくなるだろう。その恐怖が、彼女をさらに追い詰めていた。


 ケモミミ渋谷の繁華街から少し外れた、ネオンのけばけばしい光もほとんど届かない薄暗い路地裏。まるで都会の喧騒から取り残されたかのように、ひっそりと佇む小さな神社があった。鳥居は赤錆びて苔むし、参道と呼べるのかどうかも怪しい道は、人の背丈ほどもある雑草で覆い尽くされている。もちろん、賽銭箱などというものはどこにも見当たらず、およそ参拝者が訪れる気配などまるでない、忘れ去られたような場所だった。結菜は、その荒れ果てた神社の入り口で足を止め、先ほどコンビニで買った菓子パンの入った袋を、まるで大切な宝物のように胸にきつく抱きしめていた。


「ここ……なんだよね? あの人たちが、言ってた場所…」

 確信はなかった。しかし、彼女の犬耳は、周囲の不気味な静寂と、どこからか漂ってくるカビ臭い匂いに、不安げにピクピクと揺れ動き、腰の尾は恐怖でぴたりと動きを止めていた。

 ごくりと唾を飲み込み、震える手でコートのポケットを探る。指先に触れたのは、冷たく、そして少し汗ばんだ感触の一枚の500円硬貨。今日のバイトで稼いだ、汗と涙の結晶とも言える大切なお金だ。これを、本当にこんな馬鹿げた噂のために使ってしまうのだろうか。一瞬、ためらいが心をよぎる。しかし、脳裏に再び佐々木の卑しい笑顔が浮かび上がると、結菜は固く目を閉じた。もう、限界だった。あの男の顔を見るのも、声を聞くのも、同じ空気を吸うことすら耐えられない。もし、万が一、ほんの僅かな可能性でもあるのならば…。

 硬貨を握りしめた指先が、白くなるほど力がこもる。


「お願い……します……! あの店長を……あの人を、どうか……! どうにか……してください!」


 絞り出すような、ほとんど吐息に近い小さな声で囁き、祈りを込めて、結菜はその500円硬貨を、雑草の茂る神社の薄暗い地面へと投げた。カラン、と乾いた金属音が、しんとした夜の闇に虚しく響き渡る。しかし、それだけだった。風が雑草を揺らす音と、遠くで鳴り響くサイレンの音が、彼女の鋭敏な犬耳に届くだけで、他に何かが起こる気配は微塵もない。結菜は力なく肩を落とし、自嘲にも似た深い溜息を吐き出した。

「やっぱり……ただの噂、だったんだよね……馬鹿みたい、私」

 呟きながら、彼女は踵を返し、逃げるようにその場を後にした。背後の神社は、変わらず深い闇と静寂に包まれている。


 結菜の小さな背中が、路地の闇に完全に消えてから、どれほどの時間が経っただろうか。

 誰もいないはずの神社の奥深く、最も暗い影が揺らめいた。月光が、雲の切れ間から筋のように差し込み、先ほど結菜が投げた500円硬貨を、まるでスポットライトのように白く照らし出す。

 すると、その闇の中から、音もなくすうっと細く白い手が伸びてきた。まるで人形のように滑らかな動きで、その手は地面に落ちた硬貨を拾い上げる。月光に照らし出されたのは、腰まで届く艶やかな灰色の長髪、月光を反射して鋭く尖る狼の耳、そして、まるで世界の全ての闇を吸い込んだかのような、昏く、底知れない光を宿した双眸。漆黒のフード付きマントを身に纏った小柄な少女が、いつの間にかそこに立っていた。彼女は拾い上げた硬貨をじっと見つめ、そしてゆっくりと握りしめる。

「……契約成立」

 少女の唇から漏れたのは、夜の静寂に溶け込むような、低く、そして一切の感情を排した声だった。その声は、まるで古びた鈴が鳴るような、不思議な余韻を残して夜の闇に消えていった。


 翌日、結菜はいつもよりさらに重い心と体を引きずるようにして、「ファミリーキッチン渋谷店」へと出勤した。昨日、あんな馬鹿げたことをしてしまったという自己嫌悪と、それでも心のどこかで「もしかしたら」という淡い期待を捨てきれない自分への苛立ちが、胸の中で渦巻いていた。ピンクと白のフリルが可愛らしいはずの制服に袖を通し、鏡の前で力なく垂れたままの犬耳を、無理やり指で少しだけ持ち上げて形を整える。鏡に映る自分の顔は、案の定、昨日よりもさらに色濃く疲労と不安が浮かび、目の下にはうっすらと隈までできていた。


「今日も……一日我慢しなきゃ……」


 結菜は小さく息を吐き出し、頬を両手で軽く叩いて無理やり気合を入れる。そして、ぎこちないながらも、精一杯の笑顔を唇に浮かべた。フロアに出ると、ランチタイム前の穏やかな時間が流れていた。窓際のテーブルでは、猫耳の小さな子供を連れた家族連れが、楽しそうにメニューを広げている。カウンター席では、兎耳の若いカップルが、スマートフォンの画面を一緒に覗き込みながら、親密な雰囲気で囁き合っている。結菜は、汚れたテーブルを拭き、カトラリーを補充しながら、テキパキと開店準備を進めていく。やがて客が一人、また一人と入店し始めると、彼女は背筋を伸ばし、先ほど練習した笑顔を顔に貼り付けた。重たいトレイを華奢な腕で軽々と持ち上げ、注文の入った料理を客席へと運んでいく。彼女の動きは、訓練されたように無駄がなく軽やかで、その度に腰の犬の尾が、まるでメトロノームのように小さなリズムを刻んで揺れる。


「ご注文の、ふわふわオムライスと、お子様ランチセットでございます。ごゆっくりお楽しみくださいませ!」


 できるだけ明るく、そして可愛らしい声を意識して客に呼びかけると、小さな猫耳の女の子が「わーい!」と歓声を上げ、その母親が結菜に優しく微笑み返してくれた。その些細なやり取りが、結菜の強張っていた心を、ほんの少しだけ温めてくれる。もしかしたら、今日は何事もなく、無事に一日を終えられるかもしれない。そんな淡い期待が、彼女の胸に芽生え始めていた。


 だが、その束の間の安堵は、厨房の奥から響いてきた、あの忌まわしい声によって、あっけなく打ち砕かれた。


「結菜ちゃん、ちょっとこっちに来なさい」

 低く、ねっとりとした、蛇が這うような声。佐々木店長の声だ。その声を聞いた瞬間、結菜の犬耳が恐怖にピクンと鋭く震え、先ほどまでリズミカルに揺れていた尾が、まるで蛇に睨まれた蛙のように、ぴたりと動きを止めて硬直した。


「は、はい……ただいま、まいります……」

 かろうじて絞り出した声は、自分でも情けないほど小さく、そして震えていた。結菜は、逃げ出したい気持ちを必死で抑え込み、重い足取りで厨房の奥へと向かった。そこには、腕を組み、仁王立ちになった佐々木が、待ち構えていた。


 佐々木は40代半ばの、どこかだらしのない印象を与える男だった。脂でギトギトと光る額には、申し訳程度に猫の耳がちょこんと付いているが、それは彼の卑しい印象を和らげるどころか、むしろ不気味さを増幅させているようにさえ感じられた。制服のネクタイは常に緩められ、シャツのボタンも一つ二つは開いているのが常だった。その薄い唇には、常に計算高い薄ら笑いが浮かんでいる。


「結菜ちゃん、君のさっきの接客だがねえ、まだいくつか問題があるようだね」

 佐々木は、指導者ぶった恩着せがましい口調で話し始めると、ゆっくりと結菜へと近づいてきた。その目が、いやらしい光をたたえて、彼女の顔から胸元、そしてスカートの裾へと、じろじろと這い回る。


「お客様に対する笑顔が、まだ硬いんだよ。もっとこう、肩の力を抜いて、柔らかく、親しみやすい笑顔を心がけてごらん」

 そう言うと、彼の手が、何の躊躇もなく結菜の肩にがっしりと置かれた。その瞬間、ビクッと結菜の体が大きく震え、反射的に身を引こうとする。過去の不快な記憶が、鮮明なフラッシュバックとなって脳裏をよぎり、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。


「す、すみませ……気をつけ、ます……」

 うつむき、消え入りそうな声で答えるのが精一杯だった。

「ほら、顔を上げて。そうやって俯いていたら、お客様に暗い印象を与えてしまうだろう? こうやってね……」

 佐々木の手が、今度は結菜の頬へと伸びてくる。ザラリとした感触の指先が、ゆっくりと彼女の肌をなぞり、そのまま耳元へと移動して、敏感な犬耳の付け根を、執拗に、そしていやらしく撫で回した。


「ひっ……!」

 結菜の喉から、押し殺したような小さな悲鳴が漏れた。全身の産毛が逆立ち、肌に粟が生じるのが分かる。佐々木は、彼女のその反応を見て、満足そうに目を細めた。


「これは指導なんだから、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。店長として、君を一人前のウェイトレスに育て上げるのが、私の大事な仕事なんだからねえ」

 口調こそあくまでも穏やかで丁寧さを装っているが、その瞳の奥には、獲物をいたぶるようなサディスティックな光と、濁りきった欲望の色が、隠しようもなく浮かんでいた。結菜は、ただ唇を噛みしめ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。これから始まるであろう、長く、そして屈辱的な「指導」の時間を思うと、目の前が暗くなるような絶望感に襲われるのだった。


「ほら、こうやってね」

 佐々木の手が、結菜の胸元に伸びる。指がゆっくりと肌をなぞり、服の中に指が入ってこようとしていた。

「ひっ……!」

 結菜が小さく声を漏らすと、佐々木は目を細めた。

「指導なんだから、嫌がらないでください。店長として、君を一人前にするのが私の仕事だよ」

 口調は丁寧だが、その目は欲望に濁っている。



 閉店後、店内は静まり返る。客は帰り、スタッフもほとんど帰宅した。結菜は一人、店長に「指導のため」と残されていた。

 彼女はトレイに皿を乗せ、指示された通りに運ぶ。制服のスカートが揺れ、犬耳が心細げに垂れる。

「結菜、もっと姿勢を正してください。胸を張って、堂々と」

 佐々木の声が背後から響く。結菜が

「はい……」

 と答えると、彼の手が背中に触れた。

「こうやって、背筋を伸ばすんだよ」

 手がゆっくり下がり、腰からヒップに触れる。


「や、店長……!」

 結菜が振り返ると、佐々木はにやっと笑う。

「指導だよ、結菜。嫌がらないでください」

 彼の手が、結菜の胸に伸びる。制服の上から、柔らかく押しつぶすように揉む。

 片手が結菜のヒップを撫でて、片手はバストを強く揉んでいた。すでに触れると言った領域を超え、明らかな愛撫であった。

「ひっ……やめて、ください……!」

 結菜の声が震え、トレイが傾く。皿が床に落ち、ガシャンと割れる。


 佐々木の目が鋭くなる。

「結菜、なんてことを……これはオシオキが必要だな」

 彼は結菜の腕を掴み、厨房の奥に引きずる。

「やっ、離してください……!」

 結菜の犬耳が恐怖で震え、尾は完全に縮こまる。佐々木は彼女を壁に押し付け、スカートをめくり上げる。

「指導だよ、結菜。悪い子にはお仕置きが必要なんだ」

 彼の息が荒くなり、結菜の首筋に舌を這わせる。

「いやっ……許してください……!」

 男のざらついた舌が首を這う感触。結菜の瞳からは涙が溢れていた。恐怖に大きい声をあげようにも、か細い声しか出ない。


 佐々木の手がさらに下に伸び、結菜の太ももを撫でる。

「いい子なら、もっと優しくしてあげるよ。ほら、店長の言うことを聞いてください」

 彼の体が結菜に密着し、欲望に満ちた笑みが広がる。その指が股間の合わせ目に伸びようとしていた。

 結菜はただ震え、涙を流しながら呟く。


「許して……お願い……誰か……助けて……」


(続く)

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