アウトドアで料理をする-2
信じられない!
イヴは自分の作戦成功を心の中で喜び、満点を付けた。
クライブの視線が自分の胸の谷間に向いていることに、意識してこういう格好をしてきたイヴが気が付かないはずがない。というか気にしていた。まず作戦の第一段階は成功だったといえる。
彼には既に言ってしまったも同然だが、イヴには体験がない。ハイティーンの頃、同世代の女子が、たとえ好きでもない相手であったとしても相手を探し、18歳で経験するのが当たり前だった。だが、イヴはそうしなかった。そもそも恋愛を自分がするなんて思っていなかったし、性行為の危険性も勉強して知っていたし、何よりもし恋に落ちることがあったらそのときでいいと思っていたからだ。
まさか30歳になる今までこんなになるとは思っていなかったが、あまり気にしていなかった。これまでも、そしてこれからも1人で生きていくのだとおぼろげながら考えていたが、それだけだった。寂しくもなかった。弁護士の仕事はハードで先が長く、果てがなく、疲れ果てて、そんなことを考える暇なんてなかった。自分の能力の低さを嘆いた。
そして今回の件だ。逆恨みで嫌がらせのストーカー行為があり、この北の国に逃げてきた。しかしそのお陰で自分が疲れ切っていて、だからこそ、そちら方面に目が行かなかっただけだと気付いてしまった。
本能はクライブをその相手にしたいと言っている。もちろん理性でも、感情でも、クライブはその相手に相応しいと思う。きっと優しく導いてくれるだろう。今のこの北の国での生活で気を遣って一緒に過ごしてくれているその延長線上で一緒の夜を過ごしてくれるだろう。
そう考えると身体が熱くなるのが分かった。
この自分の中に隠れていた情熱を鎮める必要はないとイヴは思い至り、ジョージの店からコテージに戻るとすぐに服を探した。クライブを誘惑できるような服である。しかし元々そんなものは持っていない。一応それっぽいと思われたのが室内着のタンクトップだったというわけだ。ゆるゆるなのでブラが見えてしまうが、それはここにはクライブしかいないのだから問題にはならない。
……もし本当にクライブに求められたらどうしよう。
正直、心の整理と準備はできていない。しかしここで動かなかったらずっと動かない気がした。だから決心して着替えて彼の前に出た。
そもそも30歳の処女なんて重すぎて、彼は敬遠するかもしれない。マギーと自分が男性にとって違うのはわかる。マギーの方が男性にとっては気楽な相手だ。クライブが言っていたとおりスポーツ感覚でセックスをする人種がいることも分かっているつもりだ。その上で割り切って2人は夜を過ごしたわけで――自分がそうと思われなくても、クライブのことを求めているのが真実であっても、クライブにはそう重く思わないで貰いたい。
矛盾している。実際にそんな気持ちで彼が抱いて、そのあと軽く扱われても自分は傷つく気がする。しかしクライブは絶対にそうはしない。きっと優しく愛してくれる。そしてだからこそ辛い。彼は自分が辛くなることも想像しているから、抱いてはくれない。
そもそもクライブとイヴの人生が交わったことそのものが奇跡のようなものなのだ。クライブは北の国のウィルダネスで生きるシーカヤックガイド。イヴは世界有数の大都会で働く弁護士だ。住む世界が違いすぎる。イヴが北の国で暮らせるかといえばそれは難しいだろうし、クライブがメガロポリスで暮らすのはもっと難しいだろう。
しかし未来は分からない。そして何事も踏み出さなければ変わらない。自分が変わらずに周囲が変わってくれるのを期待しているだけで運命が好転するなんてことはない。
イヴはこの先どうやってクライブをその気にさせようかと考える。全く自信がないし、手は浮かばない。それでも攻撃あるのみだ、とダッチオーブンを探しているクライブを見るのだった。
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