初めてシーカヤックに乗る-4

 気になる。

 気になって骨組みの調整作業が進まない。ちゃんとまっすぐリブが付いているのかをレーザー測定して確認しても、なにか違っている気がしてしまう。

 これはダメだ。気もそぞろという奴だ。こういうときは失敗するのがオチだ。

 小一時間ほど作業したものの、結局クライブはイヴが何をしているのか気になってバイダルカの製作作業を中断した。

 レモン水をお気に召したか聞くか……いや、それは不自然だから差し入れにお菓子を持って行こう、と思いつき、母屋に戻って買い置きのクッキーの包みを持ってコテージに行く。

 すると玄関の扉も窓も開け放たれたままで、窓から中をのぞき込むとイヴはベッドの上でタオルケットの1枚もかけずにすやすやと寝息を立てていた。

 女性が寝ているところに入るのは気が引けたが、色っぽい展開は皆無だ。これはもう保護者の気持ちでコテージの中に入る。彼女にタオルケットを掛けてあげ、テーブルの上にお菓子を置いてメモを残し、玄関の扉もカギを掛ける。

 いくらこの辺境の治安がいいからといっても、野生動物が家の中まで入ってくる事故は跡を絶たない。自分がいるから安心してくれているのはわかる。しかし不用心だ。第一、自分をそんなに信用して貰っても困る。

 ベッドの上で眠っている美女にキスの1つもしないというのは男としてどうだろうかと思う。いや、それでいいんだ。したら犯罪だと自分にツッコミを入れる。

 まさか自分が作ったコテージの、自分が作ったベッドの上にこんな美人さんが眠ることになろうとは夢にも思わなかった。

 ん、とクライブは改めて考える。これでは先輩の思う壺ではないだろうか。

 大切なのは理性、理性ですと自分に言い聞かせ、納屋に作業に戻って適当な時間で切り上げる。お昼ご飯には起きてくるだろうと見当を付けてのことだ。薪オーブンに少し薪を足し、いつでも火をおこせるようにしておく。

 そしてイワシの缶詰で簡単なパスタソースを作っておき、お湯を沸かすために鍋に水を張り、薪オーブンの天板に置いた。

 一緒にパンケーキを作ったときのイヴが思い出される。楽しかった。また一緒に作る機会は夕食の時でいいなと思う。今は好きなだけ眠ればいい。眠れることそのものが贅沢に思えるときも人生にはあるのだ。

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