第6話 入学祝いにお兄様に髪飾りを買ってもらいました

「キャーーーー」

「フリッツ!」

「まあ、フリッツ様が!」

 王妃様や侍女が慌てて気絶したフリッツに駆け寄って、周りは騒然とした。


「王宮のお茶会で王妃様のお気に入りの近衞騎士を倒して何しているのよ」

 お姉様には呆れられていたが……だって喧嘩売ってきたのは王妃様だし……まあ、王太子殿下の婚約者選定のお茶会で王妃様に睨まれたのは良くなかったかもしれないとお姉様に対して少しだけ後悔したのだった。


 陛下だけは喜んでくれて、

「さすが、ルードルフの娘じゃな。剣は顔では無いな」

 なんかとても失礼なことを言われたような気もしたんだけど……


「ユリアーナは強いね」

 その後、王太子殿下からも声をかけてもらえて、まあ、これできちんと参加したことになるだろう。


 可哀相に会場に来なかったお兄様達は翌日怒り狂ったお父様に徹底的にしごかれていたけれど……

 まあ、お兄様は訓練になって良かったとか平気で言っていたし、付き合わされたエックお兄様とフランツお兄様はご愁傷様だったけれど……



 私はその後、庭のテーブルに積まれたデザートを山盛り食べたのだ。

 公爵家の料理人も最高だけど、王宮の料理人はその上をいってとても美味しかった。見たこともないケーキに久々に食べたメロンまであったのだ。前世では病弱で私はあまり食事も満足に食べられなかったのだ。でも今世は健康で、より中にこんな美味しいデザートがあるなんて本当にもう、幸せだった。

 いけ好かない騎士を倒せたし、デザートもたらふく食べられたし本当に良かった。


「ユリアーナ。王宮に来ればいつでも、このデザートが食べ放題だよ」

 皆に遠巻きにされていたけれど、何故かその中で寄ってきた王太子殿下にそう言われて、私は少しその言葉に惹かれた。


「そんな恐れ多いことは出来ません」

 でも、その後ろに立って私を怖い目で見ていたマイヤー先生をちらっと見て、私は首を振ったのだ。そんなことしたら食べる時も後ろにつかれて延々指導されそうだ。王宮を根城にしているマイヤー先生には出来る限り近付きたくはなかった。


 結局王太子殿下の婚約者はお姉様に決まったのだ。まあ、高位貴族で年の近い令嬢の中で一番位の高いのはお姉様だったし、順当だろう。




 我が家の食事の時間は子供が5人も揃うのでとても賑やかだった。私は12歳になっていた。


 今朝、私はお兄様にもらった金色の髪飾りを私専属の侍女のニーナにつけてもらっていた。

「とてもお似合いですよ。アルトマイマー様が、選ばれたにしては、とてもセンスが良いです」

 ニーナが何気にお兄様を貶しているが、私はご機嫌だった。


 昨日、お兄様達とダンジョンに潜ったのだが、その帰りに珍しくお兄様がその麓の街の宝飾品店に寄ってくれたのだ。そして、金の髪飾りを私に買ってくれた。その髪飾りにはお兄様の目の色に似たサファイアも付いていた。お兄様が宝飾品を買ってくんれるなんてめちゃくちゃ珍しかった。武器とか防具とかはもらったことがあるけれど、お兄様が装飾品買ってくれるなんて!

 私はもう感激したのだ。


「いや、もうすぐユリアも王立学園に入学だからな。学園にトップ合格したみたいだし、これは祝いだ」

 そう言ってお兄様が私に渡してくれたのだ。


「ありがとう、お兄様!」

 私は思わずお兄様に抱きついていた。

 お兄様は照れてか少し赤くなっていた。

 お兄様が赤くなるなんて珍しいけど、私はとても嬉しかったのだ。


「なんか、兄上の色そのままだな」

 エックお兄様が呆れていたけれど、髪飾りの金色はお兄様の金髪の色とそっくりだったけれど……まあ、私はお兄様の一番弟子だし、これで良いだろう!



 食堂に髪飾りをつけて喜んでいくと、当のお兄様はまだ来ていなかった。


「なんだ、ユリア、早速髪飾りをつけてきたのか?」

「だってお兄様にもらった装飾品なんて初めてなんですもの」

 私は二番目のエックお兄様に自慢して見せた。

「本当だな。金ぴかだ」

 フランツお兄様まで言ってくれた。

「そうそう、キラキラと光ってきれいでしょう?」

 私は胸を張って自慢した。


「ちょっと、ユリア、あなただけ金ぴかってずるいわ」

 後ろからお姉様が文句を言ってきたんだけど……

「お姉様もお兄様に買ってもらった黒い髪飾りがあるじゃない」

 そうだ。お兄様はお姉様にも黒いきれいな黒真珠の付いた髪飾りを買っていたのだ。値段はお姉様の方が少し高かったような気がする。そこは私も少し気になったんだけど、まあ、お姉様は王太子の婚約者だし、年上だし、仕方がないと思ったのだ。


「あんな地味なの嫌よ。私も金ぴかが良いわ。あなたのそれ寄越しなさいよ」

 お姉様はいつも強引なのだ。


「絶対に嫌!」

 でも、今日は私も取られないように髪飾りを押さえたのだ。


「ちょっとユリア! あなた妹なんだから寄越しなさい! 私の黒いのと交換してあげるから」

「これが良いの」

 私がお姉様の提案を拒否したのだ。


「何を喧嘩している!」

 そこに不機嫌そうなお兄様が来てくれた。


「お兄様! お姉様が私の髪飾りを寄越せって言うの!」

 私はお兄様に抱きついたのだ。危ない時のお兄様頼りだ。


「リーゼ、お前には黒い髪飾りをやったろう」

 お兄様がお姉様を注意してくれたが、

「何で、ユリアのが金ぴかで私のはこんな地味な黒なの! 依怙贔屓じゃ無い!」

 お姉様が文句を言ってくれた。

 ふんっ、そんなの私の方が可愛いからに決まっているじゃ無い!

 私は心の中で思ったのだ。お兄様に守ってもらえるように私は日々とても努力をしているのだ。


「えっ? それはだな……」

 お兄様が言いよどんだ。さすがに私の考えたことは言えまい。


「やっぱりお兄様はユリアを贔屓にしているのね」

「ユリアの方が可愛いから仕方が無いわよね。お兄様」

 怒ったお姉様に私はニコッとしてお兄様を見上げたのだ。


 お兄様は私とお姉様を見遣って頭を振ると、

「リーゼ、お前は姉なんだからそれで我慢しろ」

 お兄様はそう強い口調で言うとその場を治めようとした。

 お兄様がこういった時に逆らうと碌な事は無いので、お姉様も黙り込んだが、これは後で私がまた虐められるパターンだ。私はできる限りお兄様にくっつくことにしたのだ。


 そして、その日の朝のデザートがなんと可愛いプチケーキだった。

 私は公爵家の色とりどりのプチケーキが大好きだった。


 早速自分の分を口に運んだ。

「美味しい!」

 私は感動した。


 そして、私の横のお兄様の方を期待を込めてみると、

「お前は本当に好きだな」

 お兄様が苦笑いをすると、プチケーキをフォークに突き刺して、私の口の中に入れてくれたのだ。

「美味しい!」

 私は満面の笑顔でお兄様を見た。


 それをむっとした顔で前のお姉様が見てきた。欲しかったら自分から言えば良いのに! 


 私はお姉様を無視して、今度はお兄様とは反対側のフランツお兄様の方を向いて、ニコリとしたのだ。


「えっ、しかし、ユリア」

 フランツお兄様は私に抵抗しようとしたのだ。

 そんなのが許されるのか?


 私が小首をかしげてフランツお兄様を見て、お兄様の方を向いたのだ。

「お兄様、そういえばフランツお兄様がまた訓練をサボって……」

 そう、私がお兄様に話しかけると、

「ああああ……待った、ユリア!」

 慌ててフランツお兄様がプチケーキの皿を私に差し出してきたのだ。


 そうそう、素直にはじめから言うことを聞いておけば良いのだ。

 私はフランツお兄様の弱みはいやというほど沢山握っているのだ。


「レディファーストだからな」

 フランツお兄様は訳のわからない理由を挙げてくれた。


「ちょっと、レディファーストだったら私はどうなるのよ」

 むっとしてお姉様がフランツお兄様を睨み付けたが、

「仕方がないじゃないか。小さい順だからな」

 フランツお兄様はいかにも当たり前のように言い訳するけれど、弱みを一杯握っている私にフランツお兄様が逆らえる訳は無いのだ。


「エックお兄様に頼めば良いだろう」

「エックお兄様!」

 フランツお兄様の言葉に期待を持ってお姉様がエリックお兄様を見たけれど、

「えっ、もう食べちゃったよ」

 エリックお兄様は平然と言ってくれた。


 エリックお兄様はケチなのだ。私でも頼んだことが無いんだから、絶対にくれる訳はないのに!

 お姉様は馬鹿だ。


「そんな!」

 がっかりしたお姉様は怒りに満ちた視線で私を睨み付けてくれた。


 これもそれも私から髪飾りを取り上げようとしたからよ!

 いい気味だと私は笑ったのだった……


 私は今朝の勉強の時間が私の苦手な礼儀作法の授業だと言うことをすっかり忘れていたのだった。

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