第22話「凛と陽斗の応答」
スピーチ大会の翌日、校舎の空気は少しだけ柔らかく感じられた。
晶は、まだ自分の話がどれくらい“伝わった”のか、実感が持てずにいた。
でも、なんとなく――
心の中に残った言葉たちが、ゆっくりと体温を持ち始めていた。
昼休み。
ベランダの隅で、凛が声をかけてきた。
「ねぇ、昨日のスピーチ……ちょっとズルかったよ」
「え?」
「なんかさ……あの“ことば”たち、ぜんぶ晶そのものだったから。
もう返す言葉が見つからないっていうか」
凛は、カバンから一枚の紙を取り出す。
それは、彼女が密かに準備していたスピーチ原稿だった。
「私は、言葉を“動画の素材”くらいにしか思ってなかった。
でも、晶の語彙に触れて、
“ことばって、相手に残るものなんだ”って思えた。
誰かの一言で、一日が変わったり、
その言葉を何度も思い返したりすることがある。
私も、そんな言葉をつくってみたくなった。」
晶は、胸の奥がじわっと熱くなるのを感じた。
誰かに届く語彙は、新しい語彙の種になる。
放課後。
今度は、陽斗が校門の前で待っていた。
「スピーチ、聞いたよ。……正直、グサッときた」
「え?」
「俺、語彙で“壁”作ってたけど、
お前のはさ、なんかこう、やわらかい風みたいだった。
閉じた窓をふっと開けてくれる感じ。
……くやしいけど、ちょっと、泣きそうになった」
晶は驚いた。
陽斗から、こんなふうに気持ちを伝えられたのは初めてだった。
「それ、すごい言葉じゃん」
「いや、たぶん“難しい語”より、
ちゃんと“選んだ語”のほうが強いって、やっとわかっただけ」
帰り道、三人は並んで歩いていた。
話す言葉は多くなかったけど、
その沈黙に、やさしい語彙が満ちていた。
「言葉って、受け取るほうにも育つ力があるんだな」
晶は、そう思った。
🔜次回:🌱語彙の芽〈第22話編〉
語彙は、届いた先で芽吹く。
誰かの中に残り、やがて返ってくる。
“受け取る力”と“返す言葉”――共感と応答の語彙の深まりを探ろう。
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