第13話「心の天気予報・前編」
月曜の朝。
教室の空気は、なんだか重たかった。
クラスメイトのひとりが、部活の大会でミスをしたらしい。
誰も口には出さないけれど、言葉の代わりに沈黙が広がっていた。
晶もどこか落ち着かない気持ちで席に着いた。
週末のことで、胸の奥にずっと残っている“あの感情”がうまく消化できない。
陽斗とのやりとり。
「言葉は、知性の表現だ」という彼のセリフ。
あれからずっと、どこか心が曇っていた。
「なんか……もやもやするな」
つぶやいた瞬間、AICOが起動した。
「“もやもや”とは、感情の霧です。
その“心の天気”を、もう少しだけ具体的にしてみませんか?」
「心の……天気?」
「はい。感情を“天気”にたとえることで、
言葉にならない気持ちを、視覚的に・感覚的に表現する方法です。」
AICOの画面に、空模様が次々と映し出される。
「たとえば、“うれしい”は“快晴”。“怒り”は“雷雨”。
“緊張”は“突風”。“悲しみ”は“霧”や“氷雨”など。
心の動きを天気でたとえることで、感情に温度と空気を持たせることができます。」
晶はノートを開き、思い当たる感情を書き出していった。
・なんとなく胸が重い → 曇り空
・ぼんやりする → 霧
・ちょっと悔しい → 小さな雷
・すこし安心してる → やわらかい日差し
「……なんか、面白いな」
自分の気持ちを天気にしてみると、不思議としっくりくる。
言葉にしづらかった“気配”のような感情が、
空模様の中で表情を持ちはじめたような感覚。
AICOがつぶやく。
「気持ちは“空”のようなものです。
時に晴れて、時に曇って、時に嵐がやってきて、
でも必ず変わっていく。
だからこそ、語彙でその“今の空”を記録してみてください。」
放課後。
晶は教室の隅で日記アプリを開いた。
今日はなんだか、心が霧のなかにいた。
でも、凛の声を聞いた瞬間、ふっと霧が晴れた気がした。
今日の心の天気:午前=霧/午後=晴れ間の見える曇り
気温:すこし肌寒いけど、風はやさしかった
ことばにしてみたことで、
なんとなく“自分の心”に少し近づけた気がした。
🔜次回:🌱語彙の芽〈第13話編〉
“気持ち”を“天気”にたとえる?
モヤモヤ・ピリピリ・スッキリ――気象語彙で感情を描写するヒントを紹介。
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