第9話「ことばのブロック」
「……で、えっと、それで……」
ノートの上で、言葉が止まった。
晶はペンを握りしめたまま、黙り込んでいた。
週末課題の“短いエッセイ”――テーマは「最近心が動いたこと」。
内容はもう決まっている。あのパンケーキの日、凛のひと言、そして自分の気持ちの変化。
でも、“うまくつながらない”。
頭の中では、いくつもの場面や気持ちが流れているのに、
文章にしようとすると、ぶつぶつと切れてしまう。
「凛に“語彙、磨こうね”って言われて……いや、“言われた”じゃ弱いか……」
「パンケーキを食べて、言葉にして……“ふつうにうまい”じゃないってわかって……」
「だから、うーん……それで? だから何? ……なんだこれ」
文章の途中で“詰まる”感覚。
何かが前に進もうとしているのに、道にブロックが置かれているような。
「論理の流れが、断絶していますね。」
AICOの声が響いた。
「“語彙力”は単語の強さだけではなく、“語と語のつなぎ方”でも決まります。
接続語の使い方を整理してみましょう。」
「接続語……って、あの、“だから”とか?」
「はい。“だから”“しかし”“つまり”“たとえば”“一方で”など。
それらは、ことばとことばの“橋”です。論理の流れをつくる“つなぎ目”です。」
AICOが画面に表示したのは、接続語の簡単な分類だった。
【接続語マップ】
① 順接:だから/そのため/すると
② 逆接:しかし/けれど/とはいえ
③ 添加:そして/また/それに
④ 例示:たとえば/たとえるなら
⑤ まとめ:つまり/要するに/結局
「これを意識するだけで、文章は“つながって”いきます。
言いたいことがあるのに伝わらないとき、多くはこの“橋”が足りないのです。」
晶は、自分のメモ帳を見返した。
たしかに――バラバラの感情や出来事が、ただ“点”で並んでいるだけだった。
だから読んでいて、どこに進んでいるのかわからない。
「つなげるって、大事なんだな……」
「語彙とは、ただの“ことば”の集まりではありません。
“流れ”を持って、相手の心に届くものです。」
晶は、もう一度ペンを取った。
さっきまで書いていた断片を、接続語でつなげながら読み返す。
パンケーキを食べたとき、最初は「ふつうにうまい」と言ってしまった。
しかし、凛に「もったいない」と言われて、少しショックだった。
そこで、AICOのヒントを思い出して、五感を使って表現してみた。
すると、自分の中で“味”の印象が変わってきた気がした。
だから、ことばって、自分の感じ方を変える力があるんだと思った。
読んでみると、不思議とリズムが生まれていた。
“言葉の川”が、すっと流れ出したような感覚。
「ブロックって、ただ“語彙が足りない”んじゃなくて、
“語彙がつながらない”ってことだったんだな……」
スマホの画面では、語彙スプラウトがまたひとつ、小さく揺れていた。
🔜次回:🌱語彙の芽〈第9話編〉
「語彙のブロック」は、“ことばの流れ”が止まっているサイン?
順接・逆接・例示など、使える接続語の一覧と練習法をAICOがわかりやすくナビゲート!
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