第31話 エピローグ その手にあるもの

季節はめぐり、森に雪がちらつく頃。

かつての「図書の部屋」は、少し広く建て替えられていた。屋根には煙突がつき、冬でも子どもたちが本を読みに来られるように、火が灯っている。


その奥、暖炉の近くで、紬は手紙を書いていた。


差出人:ツムギ

宛先:未来の図書委員長へ


図書室のこと、本のこと、読むこと、そして誰かに伝えること――

はじめはぜんぶ、自分のためだと思っていたんです。

でも、気づいたんです。

だれかと一緒にページをめくるたびに、

「ああ、これが生きるってことなんだな」って。

本があるから、わたしは歩けました。

けれど今は、本のない場所でも、たしかに歩ける気がしています。

もしあなたが、何かに迷ったら。

本を読んでください。

そして、閉じるときは――

どうか、だれかに話しかけてみてください。

きっとその一歩が、灯りになります。

手紙を畳み、封をして、そっと机の引き出しにしまう。

それは、いつか自分のように、本を好きになる誰かのためのもの。


外に出ると、子どもたちの笑い声が雪にまじって聞こえた。


「せんせー! この前の続き、読んでー!」


「今日も読み聞かせか……ふふ、はいはい、ちゃんと並んでね」


紬は小さく笑い、読みかけの絵本を手に取る。


かつて彼女が、読んでもらいたいと願っていたその場所に、

今は彼女自身が立っている。


そして夜。


図書の部屋の窓から見える空には、流れ星がひとつ、尾を引いていた。


その光は、遠く離れた図書室の灯りと、どこかでつながっているように見えた。


ページをめくる音。

子どもたちの声。

火のあたたかさ。


それはすべて、紬がこの世界に紡いできた証だった。


――本だけじゃない。


わたし自身が、誰かの力になれる。


それを教えてくれた異世界は、今日もまた静かに息づいている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「図書委員長の私が異世界に転生した件」 星野 暁 @sakananonakasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ