第17話 石の手がかり

草をかき分けるように進んでいくと、木々の隙間からきらきらと陽の光が差し込んだ。


「……川だ」


ラセルが声を上げ、紬も足を止める。目の前には、木陰の中を静かに流れる川があった。水は澄みきっていて、川面に映る光がやさしく揺れている。川辺には角の取れた丸い石や、赤茶けた岩のかけらが点々と散らばっていた。


紬は膝をついて、水際の小石を一つひとつ、確かめるように見て回った。しばらくして、ふと手に取った黒っぽい石に目をとめる。


――これ。


図鑑を取り出し、挿絵と見比べる。ページの上に描かれた図と、手の中の石が重なった。


「……火打石、だと思う。ちょっと小さいけど」


「ほんとに見つけたのか?」とラセルがのぞきこむ。


「うん。でも、これじゃ打ち付けるには少し小さいかな……上流から流れてきたのかもしれない」


そう言って紬が立ち上がると、リーゼと老人も無言であとに続いた。


四人は川沿いをさらに歩いていく。日が傾きはじめ、空が赤く染まる頃、緩やかな川の曲がり角にたどり着いた。木々の影が長くのび、風が草を揺らす音だけが静かに耳に届いた。


「今日は、このあたりで野宿にするか」


ラセルの提案に、誰も異を唱えなかった。






落ち葉を集め、焚き火の準備を整える。ラセルが手を差し出すと、その手のひらに淡い光が灯る。青白い球がふわりと宙に浮かび、それが薪に触れた瞬間、静かに赤い炎が立ち上った。


「……やっぱり、魔法ってすごいね」


紬のつぶやきに、ラセルは肩をすくめて笑った。


「いや、紬の“魔力を使わない魔法”に比べたら、ずっと平凡なもんだよ」


串に刺した魚を火にかざしながら、ラセルはぽつりとつぶやく。


「火打石が見つかったら、さらにすごい魔法が見られる。でも……この旅も終わりかと思うと、ちょっと寂しいな」


「私のために、みなさんありがとうございます。この旅のこと、絶対に忘れません」


リーゼが真顔でそう言うと、焚き火の炎がその横顔を静かに照らした。


紬はそのやり取りを黙って見つめていた。


――旅って、こういうのなんだ。


風が焚き火をゆらし、炎が影を揺らす。火の輪の外で、老人が少し離れた場所に腰を下ろしていた。火には加わらず、ただ黙って、星の浮かび始めた空を見上げている。


誰もその姿に声をかけなかった。ただ、同じ火を囲んでいるというだけで、不思議と安心できる気がした。

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