第7話 火傷と葉の術式
翌朝、村は騒がしかった。子どもの泣き声が、紬の仮の寝床にまで響いてくる。
ラセルの声が聞こえた。「おい、紬! 来てくれ!」
外に出ると、焚き火のそばでうずくまる小さな男の子がいた。右手が赤く腫れ、母親らしき女性が必死で水をかけている。
「火に触っちまったんだ。薪を運んでるときに、うっかり……」
母親は涙目で言った。
「……魔法医師なんて、村にはいねぇし……どうしようもなくて……」
紬は戸惑いながらも、ふと思い出す。以前読んだ『野草と暮らしの本』の中に、火傷の処置として「アロエ」が紹介されていた。たしか、葉の中にある透明なゼリー状の液を塗るという内容だった。
紬は急いで荷物の中から本を取り出し、該当のページを開いた。写真付きで掲載されたアロエの葉をラセルに見せる。
「ねえ、この葉っぱ、見たことある? どこかに生えてないかな……」
「ん? なんだこの……絵か? とげとげしてるな……あっ、見たことあるぞ」
ラセルの目が光る。
「ちょっと前に、見つけた」
数十分後、ラセルはぶ厚い葉を数本抱えて戻ってきた。紬がページの写真と見比べてうなずく。
「これだと思う……アロエ」
紬は慎重に葉を割り、ジェル状の中身を取り出すと、火傷の赤く腫れた部分にそっと塗った。
「……冷たい……」
男の子がつぶやいた。泣き声が止まり、呼吸も落ち着いてくる。
村人たちは、その様子をじっと見つめていた。
「これ、どんな魔法なんだ?」
「何かの術式か……?」
「葉っぱの中に、力が込められてるのかも……」
やがて母親が、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、本当に……あの子、少し楽になったみたい」
紬は胸の奥がほんのりと熱くなるのを感じた。
「でも……すぐに良くなるとは限りません。何日か様子を見てください」
村人たちはうなずいたが、その目はどこか神妙だった。
魔法でも薬でもない。けれど、妙な力を持つ葉――「術式」としての理解。
この日を境に、「葉っぱで火傷を和らげる術」は、村の中で静かに広まっていくのだった。
※この物語に登場する治療法は、古い文献や民間療法を元にしたフィクションです。実際の病気やけがの際は、医師や専門家に相談してください。
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