深夜零時、吊り橋で号ぶ。
海月六星
I章 夜の始まり
Overture 零下歌唱 side-レイ
1節 ゴミの話
私はクソ人間だ。
どうしようもないクソゴミだ。
そんなことを考えながら、怨み嫉みを込めて、ひたすらにマイクへ声を放った。
とりあえず今日の
私の名前は
ネット上でそこそこ人気な歌い手やってる。
歌う曲はけっこう幅広い。ポップスとか、ロックとか、ボカロとか、あとバラードとか。
歌ってて一番憂さ晴らしができるのはロックかな、だからロックが好き。
特に、ギターとドラムが激しくてベースが重たいやつ。で、テンポが速いとなお良い。
聴いてないと生きる気力すら出てこない。
だからヘッドホンと音楽は手放せない。
いつか耳聞こえなくなりそう。
私は、音楽に生かされているのかもしれない。
2節 人気の裏
もう何日か経った。
多分耐性も大丈夫なはずだからまたしよう。
まだ残ってたっけな、“あれ”。
クソ親に見つからないようにしてる箱の中に、それはある。
箱を開ければ、見慣れた小さい箱がたくさん出てくる。
紫とか紺とか、あと白とか。
そのうち一つを、取り出す。
手のひらサイズの小さい箱。
ちょっと光沢のある紫色の箱。
その中に、私の求めるものがある。
その箱の中から、20
小さい粒。錠剤。薬。
これでもうこの箱は空っぽ。
私が裏垢で入ってる病み垢界隈だと、パキるって言う。
シートからパキッて音を出して薬を取り出すから、パキる。
明らかに正しい用法の
でも、私にとってはこれが正しい量。
もう普通の使い方なんてできない。
そう、私はしているのだ。
オーバードーズを。
大体1時間くらいすれば効いてくるかな。
嫌なことを全部忘れられるし、頭も体もふわふわする。
もう、まっすぐ立ってられないくらいに。
普通に感じる心地よさとか性的な快感とはまた別の気持ちよさ。
量にもよるけど。
まあまあな量入れない限りは、ふらふらはしても倒れるくらいまではいかない。
だから大丈夫。
本当に気持ちいい。
多ぶン、わたし以がいのオーデぃしてるヒ卜もみんなそうイうカん覚。
うあー、ほんといい。サイコウ。
この状態で、音楽を聴くと、ほんとうにヤバい。
なんていうか、脳みそに直接響くみたいな。
ベースとバスドラの低音が、ギターとシンバルのトゲで殴りかかってくる。
で、それで開いた穴にボーカルとシンセが突っ込んでくる。スネアが機関銃みたいに撃ち込んでくる。最高。
そろそろしようかな。
パソコンを起動して、オーディオインターフェースを接続する。
で、マイクをそれに繋げば準備完了。
始めよう。
「————————————」
私は基本自信があるものなんてない。
顔も、カラダも、頭脳も、才能も、全部。
けど、歌にだけは自信がある。
ODしてる時だけは。
私がネットにレイ名義で投稿してるカバーは、基本的に、というか全部、ODをした状態の声だ。
素の状態だと、下手すぎてとてもじゃないがネットに上げるなんて無理だ。
私のコメント欄には、「高音が綺麗」「力強い」「エッジボイスがカッコいい」「感情豊か」って褒めてくれるコメントが多い。
もちろんそれは嬉しいし、メンタルの維持もできるからありがたい。
でもそれと同時に、あくまでODをした時の歌声を褒めてくれてるのであって、素の状態、本当の自分だと見向きもされないんだろうなってすごく怖くなる。痛くなる。感情が豊かって、多分
歌は案外疲れるから、時々休憩しないと倒れそうになる。
お薬キメてるから尚更。
いっつもこんな生活だけど、私はあんまりどうとも思わない。
学校はもう辞めたし、縛る先生なんていない。
クソ親はまあ反対するけど、レイとしての活動にはとやかく言わないからまだいいか。
ODとかリスカとかすることに反対なのは嫌いだけど。
というかそもそも私をこの世に産み落とした時点で嫌いだな。
ま、いいか。
歌を楽しもう。
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