マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴

プロローグ

序章

 街にあるとあるお洒落な喫茶店。私は急いでそこに向かった。店に入るとすぐにその店を営むマスターがカウンターから渋い声で声を掛けてくれる。


「いらっしゃい。いつものお席へどうぞ」


 頭を軽く下げて店の片隅へと向かう。そこは予約席になっており、区切られてるかのようで人目を気にしなくてもいいので、よくに利用させてもらってるんだよね。電話一本で予約もできるしね。マスターのおじさんがとにかくいい人で、言うまでもなく店の雰囲気も凄くいいの♪



 私が待ち合わせのその場所に着いた時には金髪の女の子がすでに席に着いてコーヒーを飲んでくつろいでいた。ここのコーヒーがまた美味しいんだよね!


「久しぶり♪天音あまね♪」


「遅くなってごめんね、美樹子。だいぶ待たせちゃったよね?」


 金髪の女の子は私の大親友の爪先美樹子つめさきみきこ。美樹子はモデルの仕事をしていて、なんだよね。人気モデルだし。だからこうして直接会うのは高校の受験前以来だから何ヶ月ぶりかな。電話だったりメールでは頻繁に連絡取り合ってるんだけどね。


「そんなに待ってないから気にしない、気にしない。早く座って座って!」


「ありがとう、美樹子」


 席に着く前にマスターに手で合図を送る。マスターは私のそれに小さく頷き返してくれる。いつものコーヒーをお願いしますという合図だ。常連さんだからそれだけで通じちゃうんだよねぇ♪



 そしてすぐにコーヒーが届けられる。



 まずはそのコーヒーを一口。うん!やっぱり最高!この瞬間だけはを忘れられたような気分になるよね…。


「──それにしても天音…」


「──うん?どうかした?」


「なんだか顔色が悪いみたい…何かあった?先日までドラマの撮影があったのは聞いてるけどそれだけじゃあそうならないよね?」


「………」


 私は例の件を親友に話すかどうするか迷ってしまった。


「あったんだね…。ねえ…話してよ。私達親友でしょ?力になれるかも知れないしさぁ」


 迷ってしまった時点で親友には何かあったというのがバレてしまったようだ。心配掛けたくなかったから話さなかった…。


 でも…一人じゃあどうしようもないし、心細かった。だから…たぶん私は聞いて欲しかったんだと思う…。


「…心配掛けると思って黙っていたんだけど…実はね…私…今…ストーカー被害に遭っていて…」


「っ!?」


 親友の驚いた顔を見るなんていつぶりだろう…。こんな時になんだけど…嬉しさを感じてしまう。それだけ思われてるんだなぁ…って。


「勿論警察にはすぐに相談したよ…。でも…色々と証拠集めだったりなんだりで…すぐには動いてもらえなくて…誰がそんな事をしているのか今も分からない状況で…電話番号を何回変えても無言電話は掛かってくるし、毎日何通も手紙は送られてくるし、最近は誰かに付き纏われてるようなそんな感覚もっ…だから…だから…私怖くて…」


 親友に全て打ち明けた。打ち明けてから今更ながらに思う。私が話したせいで…大切な親友にまで被害が及んでしまったらどうしようと…。



 私のそんな思いとは裏腹に、親友は私にこう言ったの…。


「なんでっ…なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」



 ──と。



 ええと…どうしようもないよね?警察もどうしようもないんだよ?近年は少しずつだけどストーカー対策も以前よりはマシにはなってるとは聞いたけど…。


 美樹子のその言葉とその表情からストーカーに対して何かできるみたいに感じるのは、どうにかなるという淡い希望を私が抱いているからだろうか…?



 美樹子がおもむろに携帯を操作して、誰かに電話を掛け始めた。


「もしもし私だけど──うん、そう──ちょっと相談したい事があって──友達の事なんだけどね──部屋開いてるよね? うん…そう…」



 電話から微かに聴こえるのは男性の声…だよね?


 誰に電話掛けているんだろう…?



 それに部屋って何だろう…?



 とりあえず美樹子の電話が終わるまで待たないと何も分からない。飲み残したコーヒーを飲みながら待つ事に…。





 ──電話を終えるとすぐに美樹子が私に対して口を開いた。


「天音」


「な、何っ?」


「正直に教えて欲しいんだけど」


「うん」


「天音の年収は」


「…うん…?ね、年収…?」


「そうよ。大事な事なの!今年の年収よ!」


 えっ……?年収…?しかも今年!?予想だにしていなかった事を聞かれて戸惑ってしまう。ま、まあ…心から信頼する親友の美樹子だからこそ、その問いには答えるけども…


「ええと…今年の年収ならだいたいでいいんだよね?」


「うん、どうせアイツには全て分かるだろうし、前もって聞いておきたいだけだから」


 アイツ…?全て分かる…?色々聞き返したい言葉はあるけど…


「たぶんだけど…一億以上いくとは思うよ?」


 こう見えて私はアイドルをやらせてもらっている。自分で言うのはアレだけど人気アイドルだ。先日出したデビューシングルは売れているし、ドラマもワンクール出演。しかも主役を頂けた。コマーシャルの撮影、それに写真集も出した。少なくともそれ以上にはなってもそれ以下ではない筈…。


「さ、流石現役ナンバーワンアイドルね…。わ、私の何十倍も稼いでるわね…。あっ…それはいいとして…ここからが本題。そのストーカーをどうにかできるとしたら…今年の年収の半分を払える?勿論払える分だけ払って、残りは後払いで大丈夫なんだけど」


「は、半分っ!?」


 一億円の半分なら五千万円だよね!?二億円あれば一億円っ!?


「そっ!ちなみに私の今年の年収は五百万円らしいから二百五十万円払う予定よ」


「な、何に払ってるの、そんな大金っ!?」


「ごめん…それを言ってなかったわね。家賃とボディーガード料って所ね。あっ、食事も希望すればつけてくれるわよ?その代わり別途お金がかかるんだけどね。でもそれだけの価値があると言っておくわ」


「しょ、食事は大変ありがたいんだけど…家賃とボディーガードが年収の半分って事よね…?それも人によって額が違う…?」


「…そうなるわ」


「あれ…?」


「どうかした?」


「それって…美樹子がモデルの仕事を始めるにあたって一人暮らしを始めたマンションの話…だよね?私も行った事があるあの綺麗なマンションの事だよね…?」


「そうよ」



 当然そのマンションには足を運んだ事がある。親友が住んでる所だしね…。


「天音に約束するわよ。アイツなら絶対にストーカーをどうにかできるって…」




 もし…ストーカーをどうにかしてもらえるのなら…




 こんな怖い思いをしなくて済むのなら…






 私は──




「お願い…できる…?」



「勿論」






 ──そして…私は美樹子にアイツと呼ばれた人に会う事になる…。




 


 



 


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