窓際
長万部 三郎太
ポジションを確立した策士
「我が社に産業スパイがいる!」
衝撃の知らせが経営陣を驚かせた。
完璧なセキュリティ設備に、徹底した社員教育。
「まさか、ウチがやられるなんて……」
このような思い上がりも原因のひとつだろう。
人間が関与する以上、ミスや抜け漏れは存在するのだ。
情報システム部の人間が必死に捜索したにも関わらず、漏洩させた犯人を見つけることはできなかった。そして会社の上層部は情シスのスタッフ呼びつけるとを『無能』とこき下ろし、彼らを激しく叱責した。
そんなある日、情シスの部長が廊下ですれ違った部下にこうこぼした。
「上は俺たちのことを無能と散々罵ったが、長万部さんはどうなんだって話だな」
「ああ、部長と同期の……」
「あの人、今は窓際族みたいな立ち位置になったけど、
本人は置かれた環境が苦痛じゃないのかねぇ? もし俺だったら……」
「部長、社内でそれ以上は」
「まぁ……、下を見れば俺たちもまだまだ安心できるよな、って話さ」
陰口を叩かれ、嫌味を言われる長万部という男は、“窓際族”という言葉通り座席も西日が当たる窓の横。
しかし、社内では空気のように扱われているこの長万部こそ、産業スパイであった。
彼は無能を演じ、窓際族のポジションを確立した策士でもある。
ここから先は情報システム部も知らない話。
彼は会社の隣にあるビルの自分がいるフロアと同じ階層にひと部屋借りており、そこに設置した無線LANの電波が会社の窓際まで届くように調整していた。
リアルタイムでPCに届く社内の情報を、自分のLAN環境に切り替えて抜き取る。
そのネタを競合他社に売ることで莫大な利益を得ていたのだ。
果たして彼は無能だろうか?
少なくとも同期の部長よりは……。
(すこし・ふしぎシリーズ『窓際』 おわり)
窓際 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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