第4話
1
杉浦は、河野に襲い掛かった。
胴タックルだ。
河野は、杉浦のパンツを掴んだ。
そして、エルボーを背中に打ち付ける。
杉浦はその場で倒れた。
ノックアウト。
試合は終了した。
2
河野は、第一試合から、ハードであった。
少しの休息の後、第二試合が組まれる。
相手は、直前まで分からない。
しかし、やることは変わらない。
自分がどんな状況であろうと相手には関係ないのだ。
全力を尽くすのみ。
言い訳は、なし。
河野は花道を歩く。
自然な足取りだ。
そして、相手のコーナーから、対戦者が現れた。
アナウンサーが紹介をする。
東洋の魔術師。
身長172㎝
体重68㎏
空手着を着ていた。
そして、長い髪を後ろで束ねている。
細い体、細い目、細い唇、細い眉をしていた。
女?のようにみえる。
まさか。
河野は戸惑っていた。
アナウンサーからも、性別は紹介されなかった。
しかし、相手が女だろうと、自分の彼女だろうと、おふくろだろうと、リングに向き合った以上はやるしかない。
2
町田は、河野を見ていた。
浅く焼けた肌に、トランクス。
金髪で、短い目をしている。
眼光が鋭い。
闘志の目だ。
おや?
少し、戸惑っているのか?
女に見えたのか?
ここでは、性別は関係ないだろ?
私が、ラウンドガールに見えたか?
それとも、空手着のコスプレイヤーに見えたか?
この試合は、時間無制限の一本勝負だぞ?
ラウンドガールはいない。
レフェリーと私と、お前だけだ。
さらに言うなら、レフェリーはいないも同然だ。
私は反則する気はないからな。
お前が反則するというのなら別だが、私は一向に構わんぞ。
お前が反則しようとしても。
それは、お前としてはまずいんじゃないのか?
まあ、それはさておき。
試合をやろうじゃないか。
ゴングが鳴った。
3
時間無制限とはいえ、たっぷり時間を掛けようとは思わない。
それは、町田も同じだ。
ぱあん
河野の左頬が鳴った。
足が飛んできたのだ。
誰の?
町田だ。
鋭い。
河野は左腕でそれを受けた。
しかし、勢いが強く、防ぎきれなかったのだ。
はやい。
地から、頬に届くまで、一秒もかからない。
こんな選手がいたのか。
格闘技界の情報なら、多少は知っている方だと思っていたが、知らない選手である。
柔道であれ、空手であれ、ボクシングであれ、そして、素人であっても、今や、SNSがあれば、そこそこの実力があれば、知られるはずだ。
いや、名が知られないように活躍していたのか?
分からない。
俺はこの、町田の正体が分からない。
一方で、町田は、俺のことを知っている。
そのくらいの自負はある。
俺の知名度はそのくらいには来ているのだ。
多少の炎上も経験している。
知られているということは、対応されるということだ。
しかし、関係ない。
気づけば別のことを考えていた。
なぜか
俺がタックルに行った後、そこを狙って、町田が顔面を打ってきたからだ。
距離的には、パンチがまともに当たらない距離であったはずだ。
しかし、現に俺は、意識が飛んでいた。
1秒の10分の1にも満たない秒数であったが。
重い。
町田の膝が、俺の腹にめり込んだ。
「うげええ」
容赦ない一撃だ。
俺は、町田の足を払った。
そして、マウントポジションを取った。
町田は逃げようとするだろう。
何と優しい顔をしているのか。
河野は上からパンチを放っていく。
それを町田は腕でブロックしていた。
町田の足がたこのように動いた。
絡まった足をほどき、マウントを返された。
今度は、町田が、河野を叩いた。
河野は上からの拳を防ぎつつ、足を、町田の胸の位置に移動させ、その足で町田を飛ばした。
河野は立ち上がる。
いいぞ
背中から、脊髄にかけて、血が沸き上がる。
肉が踊る。
アドレナリンが放出される。
大量の汗をかいている。
河野は距離を詰め、町田のレバーを打った。
「うごお」
「がっ」
町田は、河野の胸を肘で打った。
「しっ」
歯の隙間から鋭い呼気を出した。
河野が町田の顔を打った。
町田の顔から血が噴き出る。
町田の口の両端が吊りあがった。
町田は手を広げた構えから、指を折り曲げて、拳を作った。
そして、顔の前で、それを構える。
ぬっ
町田が前に出る。
河野の目線が遠くにあった。
反応しようとする前に、町田は動いていた。
左右の拳から、両頬が打たれた。
そして、顎に一打を受ける。
脳が揺れた。
しかし、倒れない。
まともに当たらなかった。
紙一重。
危なかった。
拳に重さがある。
石でも握っているようだ。
それほど太い、拳ではない。
拳が重い者なら、町田以外にも何人かいる。
そして、町田のセコンドにいる、
樹林会と北輪館は、フルコンタクト空手の、最高峰の団体で、大森と、泰地は、その最高戦力だ。
北輪館の総帥、
実践空手を追求し続け、その、別団体の、大森も、元は北輪館の人間であったが、独立し、北輪館に並ぶ、団体として名をあげたのだ。
関節技も、空手の中に取り入れたのが、大森である。
彼らは、気の遠くなるほどの長い時間を、拳を作ることに費やす。
関係なかったな。
今は、町田に集中しなければならない。
さっきに攻撃が当たったのか、当たってないのか
そんなことは、どうでもいいじゃないか。
現に今、動いているのだ。
肩や腕にも攻撃が来る。
ダメージが蓄積されてきた。
そろそろ決めないといけない。
ここで負けるわけにはいかないのだ。
脚や、レバーにも、攻撃を加えていく。
町田の寝技の実力が、どれほどのものか
それは、分からない。
マウントに持ち込めば終わりというものでもない。
河野は後ろに回り込んだ。
腕を、町田の首に回した。
裸絞め
チョークスリーパーだ。
徐々に、脳の酸素の供給が追い付かなくなる。
町田の体は動かなくなった。
突破王 パンチ☆太郎 @panchitaro
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