星を覗く者たち
鈴隠
第1章:古塔の観測者
大学で天文学を学んでいた僕は、卒業論文の資料収集のため、山奥にある古い天文台を訪れることになった。そこには、かつて著名だった老天文学者が一人で暮らしているという。今では「気が触れた観測者」と噂されていたが、教授は「昔の話が聞ければそれだけで価値がある」と言った。
天文台は時代に取り残されたような姿だった。ひっそりとした森の中に、苔むしたドームと塔が立っている。入り口には、手入れされた小さな天体望遠鏡が据えられていた。
僕が声をかけると、奥からかすれた声が返ってきた。
「星を見に来たのか」
現れた老人は、白髪を伸ばし、痩せ細った身体を黒ずんだローブで覆っていた。目だけが異様な光を放っていて、まるでずっと虚空を見つめ続けてきたかのようだった。
「空は嘘をつかない。だが、見るべきものを間違えると、魅入られてしまうぞ」
初対面でその言葉を聞かされた僕は、愛想笑いを浮かべながらも、不思議と引き込まれるものを感じていた。
天文台の中には、古い星図や天球儀が並び、天井近くまで積まれた書物の山が空気を重たくしていた。老人は、大型の望遠鏡には見向きもせず、毎晩小さな望遠鏡で星空を観察していた。
「なぜ、こんな道具で?」と聞いても、彼は答えなかった。
数日が過ぎ、僕は彼の生活に少しずつ馴染んでいった。資料整理の手伝いをしながら、夜には星を見上げ、時に彼と静かな会話を交わす。言葉少なながらも、どこか親しみを感じ始めていた。
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