第5話





 オキゴンドウの体重は1トン以上にもなる。そんな生き物に引きずり込まれて、抵抗できるわけがなかった。



 この異世界に来てもう何度死にかけたのか分からないが、今回ばかりはもう駄目かもしれない。




 無我夢中で、眼の前にある突起物を掴んだ時、まるで頭の中に吸い込まれてくるように一つの記憶がフラッシュバックした。

 記憶と、現実が重なるような、不思議な感覚を味わった。



 俺が船から捨てられて海を漂っていたとき、大嵐に襲われて船から投げ出された。その時も、今と同じことがあった。


 この柔らかな何かが、俺をこの島まで運んでくれたのだ。



 俺の顔が海中から出た時、俺を乗せた黒い塊が、波を切って進んでいるのが分かった。オキゴンドウだ。



「(オキ)ゴン(ドウ)、お前だったのか……」



 俺は目頭が熱くなるのを感じた。決して海水が染みて涙が出ているわけではない。



 しかしイルカに乗って海を渡っていく感覚は奇妙だった。まるで現実感がない。



 必死に背びれにしがみついていると、視界が開けた。白い砂浜が見えた。見覚えのある、最初に流れ着いた浜だった。



 こいつ、俺の拠点の場所を把握してる。めちゃくちゃ頭が良い。もしかしたら人間に飼育されていたのかもしれない。




 そして一度ならずも二度までも、こいつは俺の命を救ってくれたのだ。



 オキゴンドウは砂浜の近くで俺を下ろすと、一度甲高い声で鳴いて、沖の方に泳ぎ去っていった。



「ありがとう! ありがとう!」



 俺は何度も言って、手を振った。オキゴンドウは応えるように、大きく水面からジャンプした。


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