第2話
目が覚めたとき、俺は一瞬どこにいるのか分からなかった。
意識が覚醒して、改めて周りを見回して、今度は何故自分がここに居るのか分からなかった。
そこは浜辺だった。
波打ち際で、寄せては返す波に晒されているところだった。手元には、現代日本から持ってきたリュックサックがあった。
俺はゆっくりと荷物を取って立ち上がり、もう一度周りを見回した。すぐ前にあるのは、やはり海である。どうやら湾のような形状になっていて、左は先端まで岩場になっているようだった。
振り返ると砂浜で、それを100mほど登ったところからはせり出すように木が生い茂っていた。巨大な原生林といったところだろうか。
「すみませーん! 誰かいませんかー!」
俺はひとまず叫んでみた。もちろん「はーい、いらっしゃいませー」などの返答はない。
あれから……そう、小舟に移されてから、どうなったんだっけ?
俺は額に手のひらを当てて、これまでの記憶を辿ってみた。
俺はあれから、どうにか島に辿り着こうと必死だった。しかしパドルも備え付けられていない小舟で、どうすることも出来なかった。そんなの手足を縛られているに等しい。
泣きそうになっていると、「うんうん、分かるよ」と言わんばかりに空が急激に曇ってきて大雨にになった。
天候は荒れに荒れ、俺はリュックを背負ったまま、海から落ちて……。
その時、何か浮いてるものに必死にしがみついたのは覚えているのだが、あれは何だったんだろう。
いや、考えても仕方がない。助かったのは事実。プラスに捉えよう。
今の第一目標はずばり、「生存を維持する」ことだった。
俺はリュックの中身を確認した。入っていたのは
・ルーズリーフ200枚入り(新品で袋に入ったままなので濡れてなかった)
・乾パン(2缶)
・塩分たっぷりのパンが1斤
・炎の魔道具、水の魔道具
・油性ボールペン
・カッターナイフ(クビになったので、会社に置いていた備品を持ち帰った)
・水筒
スマホは没収されていた。
ちなみに、魔道具と食料は船上で船員から買ったものだ。実は俺が追放されることになって、それを憐れんだお姫様がまとまった路銀を持たせてくれていた。
それを使って異世界ショッピングと洒落込んだわけだ。
ただ、食料と魔道具2つを買った段階で、ほとんどお金は残っていなかった。恐らく大幅にぼったくられていたと思う。
まあ今となっては正しい選択だったと言える。こんなところに大金があっても一銭の価値も無いからだ。
俺は詳しい地形を把握するため、付近を歩いてみることにした。森の中は……不気味な鳥の声とか聞こえるので今は遠慮しておくことにする。
一番最初に行ったの大岩だった。気になるところを見つけていた。
近づいてみると、やはり俺の思った通りのモノがあった。
ほら穴である。と言っても、奥行きは2mほどしかない小さなところだった。でも雨風を凌げるのは大きすぎる。
俺はそこにリュックを置いて、漂着したであろう灌木や、森のフチから落ち葉などをかき集めてきた。
そして、炎の魔道具を取り出す。
船員の説明では、この魔道具は魔法を使えない人でも、火を起こすことが出来るのだという。ライターみたいなものかもしれない。
異世界の時代の相場は中世ヨーロッパ。ましてや俺が流される予定だったのは人の少ない離島。こういった物があるのは非常にありがたいと思ったのだ。……まさかサバイバルに使うことになるとは。
魔道具はろうそくの形をしていた。あくまでろうそくの形をしているだけで、本来ロウの部分には魔力が散りばめられているのだそうだ。
魔道具の根本にあった、青いスイッチを押すと、ほら穴にほんのり赤色が灯った。
俺は急いで落ち葉に着火した。白い煙が上がり始め、やがてまとまった炎となり、灌木に燃え移った。
「おお!」
と思わず俺は声を出していた。
次に俺は水の魔道具を取り出した。これはポットの形をしていて、こちらも取っ手の先にある、青いボタンを押すと、こぽこぽ音を立てて水が湧いてきた。
まさに魔法瓶である。
俺は夢中で、注ぎ口から水を飲んだ。あまりに喉が乾いていた。
全部飲み干した後、船員から言われたことを思い出した。
「火の魔道具の使用期限はせいぜい10回。水の魔道具はもうちょっと持つが……それでも毎日飲み水に使ったら2週間は持たないだろうな」
そう、これはその場しのぎに過ぎない。俺がこの島で生き残るには、水源を確保し、火を起こす術を習得し、そして何より、食料を獲らなければならない。持っているパンと乾パンだけでは、恐らく1週間持つかどうかというところだった。
俺はルーズリーフから一枚取り出し、ボールペンでこう書いた。
●ミッション
・水源を確保する(2周間以内)
・火起こしを習得する(魔道具を使い切るまで)
・食料源を確保する(1周間以内)
***
俺は地形を把握するため、湾を向こう側まで歩いてみた。差し渡し1kmくらいあるだろうか。中々大きな砂浜だった。
しかし川などは発見出来なかった。釣りが出来れば魚は手に入るだろうが、あいにく糸も針も無い。罠の作り方も分からない。そう、俺はサバイバル知識0人間なのだ。
灌木などを拾い集めながら戻った後、今度は森の中に入ってみることにした。
やはり食料も水も、一番手に入りそうなのは森の中だ。
俺は空になったリュックの中に水筒とパンを詰め、手にカッターナイフを持って森の前に立った。
足がすくんでいた。
躊躇しているのには理由がある。
こっちの世界にはモンスターが存在すると教えられていたからだ。
しかも、その中の半分以上は積極的に人を襲ってくる。しかもしかも、人の集落を少し離れたらそういったモンスターが路傍の石くらいゴロゴロしているというのだ。
いや、大丈夫なはず。だって俺にはこいつがある。
俺はカッターナイフを握りしめた。
もしモンスターが出てきたとしても、このカッターナイフでリストカットすることで「うわこいつと関わるのやめよ」と思わせることが出来るだろう。
腹が減った。背に腹は変えられない。腹をくくって探索しよう。
よし行くぞ!
俺は一歩、森の中に踏み込んだ。
「ギャ! ギャ! ギョォオオ!」
聞いた事も無い国の楽器みたいな鳴き声がすぐ近くでした。
俺は回れ右して砂浜を駆け下りた。うわこの森と関わるのやめよ。
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