第35話 寝ようとしても寝れずに死にそうになる時誰でもあると思う

「なんだよ。随分と綺麗な水芸じゃないか。」


優勝した銀之助に注目していたせいで全く気が付かなかったパルムたち。

後ろを振り向くと傷が完全に癒えたチェリオスが立っていた。


「チェリオス!もう大丈夫なんか?!」


「最新の医学は凄いな。身を以て知ったよ。大丈夫だぜパルム。」


パルムとチェリオスはその場で改めて固い握手を交わした。

後ろのリングで銀之助とディブロスが握手をするように。

ヨーベイガーやC.Bも駆け寄り互いを健闘しあった。


「しかしこの回復薬は病気は治せないようだな…。ケガとかにしか効かないみたいだ…。まぁパルムはそもそも要らんだろうな。とんでもない回復力だし。」


「…そんな事ないよ。なんか思うことでもあるんか…?」


「………いや、なんでもない。それにしてもお前の相方強いな。ホントに地球人か?」


少しだけ淋しい顔を覗かせたチェリオスだったが、すぐに笑顔になりこの場から銀之助を拍手で称えた。

ディブロスは担架で運ばれ、去り際に礼の一言を伝えそのまま眠るように気絶。

銀之助は真剣な眼差しで処置室に向かうディブロスを見送った。


「ここまで来たんや…。お前の思い、ヨーベイガーの思い、背負って優勝したらぁ。……………ていうかそうなったらパルムと喧嘩か…。ハァ…。」


色々な考えが頭の中で反芻し、リングでヘタレ込む銀之助。プレッシャーもそうだが、何よりディブロスとの戦闘ダメージがデカい。

医療スタッフが駆け寄り担架に乗るように促してきたがそれを拒否。自分で歩けるぜとサムズアップをして歩き出した瞬間にリングの半壊した破片で躓き顔からズッコケ気絶。

なんにせよ運ばれる運命にあった。


「大人しく担架乗ったら良かったのによ〜銀ちゃん〜。」


両手で頭を抱えるパルム。

ヨーベイガーもヤレヤレといった具合。

そこにチェリオスはパルムの肩に手を当て、頑張れよと激励。

なんのことか一瞬分からなかったが、目が覚めたパルム。忘れていた。

次の自分の試合。もしかしたらあの剛力巨漢のヴェルタースと当たるかもしれない。

口に手を当て慌てふためくパルム。

しかし、しかしだ。

ここで心に思うはヴェルタースの対戦相手。

見た目は1m程しかないまるで手足が生えたサッカーボールのような異星人。

そいつがヴェルタースを倒してくれるかもしれない。


「パルムさん…。気持ちはわかりますが…ヴェルタースさんを倒すような相手ならば…更に強いと思われますよ…?」


C.Bに心を読まれた。

魔法でも使ったんか!?とパルムは聞いたが、その場の全員が同じ事を考えていたようだ。

思いっきり顔に出てたとか。


「さっきもその話してたろ。大丈夫かよお前…。」


ヨーベイガーが腕を組みながらつぶやいた。

確かにそんな話さっきしてたような気がする。

しかしなんにせよ、棄権でもしない限り自分の番は回ってくる。

ヴェルタースなのか、はたまたあのボールのような見た目の異星人が相手なのか。

パルムはビビった顔で次の試合に注目する。


[皆様ぁぁぁ!!!お待たせ致しました!!!次のシード枠の試合を行います!!!これが決まればぁぁぁ!!!後は準決勝から決勝への試合のみとなります!!!]


ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!


いよいよこの大会も大詰め。

銀之助、パルム、キャプテン・バルカン、そして残るあと一人。

パルムの準決勝の相手がここで決まる。


[赤コーナー!!!屈強なボディには嘘偽りがひとつもない!ルーク選手の華麗な連撃をものともしないその鋼の筋肉は何をすれば打開できるのか!!!!!ヴェルタースッッッッ!!!]


「ガッガッガッ!!!この大会もここまで来たかぁ!!!楽しいぜ楽しいぜッッッッ!!!こんなにも強いやつらと喧嘩出来るなんてよぉ!!!」


両腕を天にかざしながらリングに向かうヴェルタース。

ルークの攻撃はほぼ効いていなかったので処置室には行っていない。

しかし服が切り裂かれ乳首は露出していたので服は着替えたようだ。

持ってきてて良かったね。


「やっぱり喧嘩師ってのは伊達じゃねぇよな。なぁ、ボーナ。」


「確かにな。シンプルなパワーで相手を押しつぶす上面からの正統派。そもそもアイツ魔力使えんのかね。な、ボーナ。」


「凄いカッコイイよねあのワニさん。どこぞの自称エリートの人が依頼してきても用心棒やってくれるのかな。ね、ボーナさん。」


クエスチョナー、グレート、エメリィがとあるエリートに疑問を投げかけた。

そのエリートは頭を抱え俯いていた。


「テメェら………、いや…まぁその…僕がやった事だけど……………そこまで弄るか普通…?あの時の僕は普通じゃなかったんだよ。マジで。なんか操られてるみたいな?だからアレ僕のせいじゃないから。辞めてくんね?」


眉がピクピクしているボーナくん。

なんでコイツがイライラしながら受け答えしているのかは不思議でならないが、そらイジられるだろう。ボーナがヴェルタースの商会に連絡してパルムたち抹殺を目論んだのだから。

しかし、どうやらボーナの記憶にはディラスはない様子。そういう仕掛けか魔法でもあるのだろうか。

でも命からがら戦ったこの3人はボーナをイジってもお釣りが帰ってくるだろう。

だって死にかけたんだもん。


「イライラすんなよな。さっきからバカみてぇにクランベリーパイばっか食べやがって。」


「ほっとけよ!嫌だったら向こう行け!シッシッ!!!お前らと居たらアホが移る!」


「あ〜あ、拗ねちゃった。まぁいいや。試合見ようぜ。」


「ボーナさん機嫌直して〜。」


[青コーナー!!!見た目はボール!心はトール!身長差なんて関係ない!全てはゴールを目指すのみ!身長90cm!体重50kg!魔力25万パワー!うさぎ座のk44第二惑星からやってきたスーパーボール!!!ボール星人のおおぉぉぉ!!!!!チップ・ボールッッッッッッッッッッッッ!!!!!!]


ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッ!!!


「チップ頑張れよー!!!」


「可愛いー!!!」


「後で握手してー!!!」


手を振り観客に挨拶するチップ・ボール。

笑顔で対応しているその姿はファンサービスというより本心でやっているように見える。

大体の異星人もそうだが、心優しいボールなのだろう。

パルムは心の中で〔このボール星人ホンマに強いんか…?でも本戦出れるってことは実力者ってことか…。〕といった具合にじっくりとチップを見つめていた。


「ムムムッッッ!!!お前女の子に大人気じゃねぇか!!!素直に悔しいぞ!!!俺を応援してくれるのは大体子分か筋トレ野郎、高齢のおばあちゃんかおじいちゃんだぞ!!!十分嬉しいけどな!!!」


腕を組みながら指をトントンと貧乏揺すりするヴェルタース。

女の子には人気がないみたい。

ていうか見た目は武人なのにどこか子供っぽい…というかバカみたいな喋り方のワニワニ。

チップがそれほどでもないよ!と指で鼻をさする。

鼻見当たらんけど。


「いい勝負をしよう!!!」


「吹っ飛ばねぇように踏ん張れよボールちゃんよぉぉぉッッッ!!!」


[試合開始いいいいぃぃぃッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!]


カーーーーーーンッッッッ!!!


パルムは腕を組み目をつむりとある事を考えていた。しかし埒が明かない。

そこでC.Bなら何か知っているかと思い話しかけた。


「なぁ、C.B…」


クルッ


カンカンカンカンッッッッッッッッ!!!!!


「へぇ?」


クルッ


C.Bの方に首を回した直後にリングに首を回す。

なんとヴェルタースが血走った白目でチップを噛み砕いていた。

チップは目がバッテンになっておりどこかキャッチー。しかし戦闘続行不能と判断されゴングを鳴らされた。


8秒。


ズコー!!!


会場の客とパルムたちは一斉にずっこけた。


「アイツ…どうやってここまで勝ち登って来たんな…。ルークはもうちょい頑張ってたぞ…。」


後頭部をさすりながらヴェルタースの口で気絶したチップに呟くのであった。














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