第4話 可愛い子には屁をこかせよ

ガヤガヤ ガヤガヤ

平日にも関わらず人通りが多いスクランブル交差点。仕事や遊びに出かけている者が行き交うこの場所。信号は青になっており、止まっていた人が動き出す。

1人の女の子が母親と手をつなぎ楽しく歩いていた。今からどこか遊びに行くのか、はたまた食事にでもでかけるのか。しかしそのタイミングで行き交う人々に猛スピードで突っ込む鉄の塊には誰も気が付かない。

1人、また1人とあまりにも遅いタイミングで大声を張り上げる。

居眠り運転である。

異星人が運転する10トントラック。

安全装置は当然あるのだが、このトラックは点検を受けていない。そして酷いことに壊れている。


「逃げろぉぉぉっっっーーーー!!!」


母親が娘を抱きしめる。

逃げられない。

ぶつかる。


ドガァァァァッッッッッ!!!!!!!!


間に合わなかった。

悲惨な事故。

誰しもがそう思っていたが、ぶつかったのは1人の女の子。

なんと片腕だけで時速120kmを超えるトラックを受け止めていた。

不思議そうに見つめる幼女の頭を撫でる少女。


「よしよし、怖かったな。よぉ我慢した。立派やで。」


ゆっくりと運転手のドアに近寄る。


「ちょいアンタァ!!!どう考えてもスピードオーバーやろがい!!!それに寝とったやろ自分!!!ウチがおらんかったらどえらい事になってたで!!!」


大声を運転手の耳を引っ張り叫ぶ。

運転手は目をグルグルしながら大きくなんども頷く。


「あ、あかんわ。配達間に合わんなる。」


よく見るとその帽子を目深にかぶった少女は片手にピザも持っていた。

その後警察に電話をかけ、颯爽とその場を去った。

なんという脚力。

4階建てのビルを軽く飛び越え、建物から建物にウサギのように移動したのであった。





「人探しですか?」


あのヒーローショーの件以来、少しではあるが客足が増えてきたクリトリス。

そろそろバイトを雇ってもいい頃合いのタイミングで相談依頼を頼まれた。

目の前の女性は50代で名前は三木文里子もりこという。

しかし、髪はとても綺麗で確かにほうれい線はあるもののとても若々しい。

少しやつれているのか、しんどそうな表情ではあるが。

注文したカフェ・オ・レは既に飲み終えていた。


「えぇ…、私の娘の事なんです。」


「娘さんですか。家出とかそういうのですかね?」


「いえ、ちゃんと家には帰ってくるんです。でも帰る時間が遅かったり何をしてきたのか聞いてもはぐらかされたりで…。」 


「悪いもんらとつるんでるかもしれへん。っちゅう事ですね。」


軽く頷く文里子。

話によると、実の娘ではなく拾い子らしい。

文里子の家は養護施設であり、息子や娘はたくさん居るのであるが誰もが血の繋がりのないこどもたち。しかしそこには血を超えた確かな絆があるのだ。

その探している娘は【三木サーシャ】という名前で、施設を建ててすぐに玄関の近くにタオルに巻かれた状態で発見された。

オギャーと大きな声ですぐにわかったらしいが、あまりにも声がでかいので異星人と思ったようだ。だが見てくれも言動も地球人そのもの。

その声の大きさは赤子の泣き声にも関わらず窓ガラスが全てクラックが入る程だったという。

養護施設【屋姫やにの家】の長女であるサーシャちゃん。

とてもいい子で弟や妹の面倒見もよく家事なども手伝ってくれている。

それは今でもそうなのであるが、帰ってくる時間が日を跨ぐのはザラになってきていた。

何をしているのか聞いても笑いながらちょっとねと言われるだけで何も答えてくれない。

現在16歳。ピチピチの女子高生である。

写真を見せてもらったパルム。

ツンテールをちょっと短くした髪型に、スカイブルーの綺麗な瞳。

それにパルムと銀之助が目を飛び出してまで見たのがサーシャのおっぱいであった。

デカい。かなりデカい。

少なくともGカップはある。

服を着ているにも関わらず強調するその偉大なるおっぱい。

無論、小さくともそれは偉大なおっぱいなのだ。

普通の仕事もやる気があるのだが、よりやる気に満ちたドスケベ2人。

またもや準備に取り掛かるのであった。 

人探しというより素行調査だね。





「この辺でよく見る言うけどどこおるんやろな。」


地図を見ながら練り歩くパルム。

周りの人に聞いてみると愛想のいい巨乳の女の子で老若男女問わず愛されているらしい。

困ったことがあれば手伝ってくれる上、可愛いく元気であると。

神戸クッキーを貪りつつ公園のベンチに座る2人。

すると向こうから誰かが歩いてくる。

まぁ人がまぁまぁ居る公園なので誰かはそら歩くけども。


「あの子ちゃうか?」 


帽子を目深に被っているので顔はよくわからない。

しかし、目立つツインテールにどこかの店の制服。そこから目立つ胸で確かにサーシャとわかる。

これで違ったらそれはそれで面白い。

声かけなんかしたらただのナンパだ。

サーシャは公園のとある箇所で止まって何やら手を動かしている。


「え…でもあの子…16言うてなかった?」


「タバコ吸うてない?」


サーシャは深々とタバコを吹かしていた。

紙タバコである。

そら銀之助とパルムも吸うのであるが、16歳で女の子にも関わらず思いっきり吸うその姿に2人は…。


「「ええやん!!!!!」」


ガッツポーズを取り小躍りしている。

とんだド変態である。

銀之助は17歳あたりから吸っていたらしい。

因みにパルムは年齢不詳であるが、20歳で通している。

足早にサーシャに近寄る2人。

周りには人が居ない。

何故かサーシャがタバコを吸い始めた時から移動し始めたのだ。

遠くに移動した人が銀之助とパルムを心配そうな顔をしている。

何をそんなに心配しているのだろうか。


「お嬢ちゃん!ちょっとええかな…」


そう銀之助が声をかけた時であった。


ブゥゥゥオオオオオオォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!


何かが爆発したかのような衝撃が走る。

その勢いに弾き飛ばされる2人。

それだけではない。めちゃくちゃ臭い。


「「クッッッッッッサァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」」


「ん?あ!!!ごめん!!!」






青白い顔をした2人が先程のベンチに腰掛ける。

目の前には両手を合わせごめんと笑うサーシャ。

どうやら先程の衝撃はサーシャの【屁】だったようだ。

あまりにも人間離れした屁。

走ったのはどうやら衝撃だけではなく笑撃もだったようだ。

ここでタバコを吸い終えると屁をこくのがルーティンらしい。

ホンマに女かコイツ。

だんだん生命エネルギーが回復してきた2人。

先程人が移動した理由を悟った。


「で、ママがウチの事調べて欲しいって言うたんやんね?」


「うん。サーシャちゃん、いっつも何してんの?」


「文里子さん学校も行ってへん言うてたで?」


「あぁ…、それ…ね。誰にも言うたことないんやけど何か兄ちゃんらにやったら言うてもええ気するわ。なんでかわからんけど。えっとね…」


簡単な話、アルバイトをしているとのこと。

理由としては弟や妹の学費を稼いでいるからだ。

サーシャ曰く、自分には学が無く通っている高校も偏差値40程度らしい。

だから自分は進学など考えていない。

しかし弟たちは頭が良かったり、学びたい道があったりでそれを目指し努力している。

しかし屋姫の家はお金がない。  

ならば自分が動こうと思ったのだ。それが返って心配の種になるとは思っていなかったらしいが。


「学校は行かんでええん?」


「ええよあんなとこ。前に他の高校の男の子と付き合った事あるんやけどさ。その時にも〜うキッショイ嫉妬に駆られたアホ女どもに色々やられてな。全員ボコボコにしたったんやわ。ついでに元カレもボコボコにしたったわ。」


「なんでぇ!!??!?」


「調子乗りで顔だけのしょうもない男やったんよ。モテてる自信あったんか知らんけどウチにあれせぇこれせぇて偉っそうに言うてきてな。ウチを一個も愛してへん。DVもされたから鬱憤溜まってたんよ。てかそんなんどうでもええがな。」


なるほどね。と頷く銀之助。

スクールカーストのような良くわからない気持ち悪いものはどこの学校にも存在する。

それの酷いのが宇宙中に放たれている【魔力カースト】であろう。

屁が原因ではないのが意外といった顔の2人。

学校も単位が少ないのでそろそろ退学されるのではという具合。

しかしそんな事サーシャからしたらどうでもいいのだ。

 

「せやからママにはそう言うとい…あ、ちょい待ってな。電話やわ。」 


「もしもし〜!お疲れ様です!サーシャです!……………はい、はい。店長が息してない?あぁ、それ店長がマッサージしたる言うて乳揉んできたから軽く小突いたんですよ。………え!???!クビィ!??!ちょい待ってぇな!!!ちょ!!!!!」


どうやら電話を切られたようだ。

訴えられなかっただけマシなのだろうか。

そのまま耳横にあてていた携帯をゆっくり下ろすサーシャ。


「………………クビになってもうた…。」


白目を向いている。

ピチチ…とそこはかとなく屁も元気がない。

しかし臭い!!!悲しみがこもっている!!!

仕事が出来ない訳では無いのだが、色々な理由でクビをきられているらしい。

その1つは屁である。

やっぱり屁こいてんじゃねぇか!!!


「ど、どないしよ…。またバイト探さなあかん…。やっぱり宇宙トーナメント参加するしかないんか…。」


「宇宙トーナメント?」


「知らん兄ちゃんら?近いうちに異星人たちが地球で武道大会開くんよ。大阪ドームやったかな?なんやえらい昔からやってる大会らしいで。」


そう言うとケツポケットからベキベキにへし折れたチラシを見せてきた。

生暖かい。


「なんてな?!第200369回?そないにやっとったんか。」


「まぁ地球が宇宙貿易始めたん最近やからの。」


「…………もうどこもあかんのかな…。」


芝生の上に三角座りをするサーシャ。

少し俯いている。先程の元気な面影がない。


「どこいっても喧嘩っ早い性格のせいでクビにされるし…。勉強出来へんだけやなくて仕事も出来へんのかな…。」


喧嘩だけじゃなく屁も原因だろと言いたいがそういう場面ではない。

人間それぞれ悩みがあるものである。

さっきの話を聞いていた2人だからなのか、お互いに顔を見合わせ頷いた。


「なぁ、サーシャちゃん。サーシャちゃんが良いって言うんならやけどさ…。」


「うちで働かへんか?」


こちらをゆっくりと見つめるサーシャ。

不思議そうなその顔はとても可愛らしいものである。

普通にしていたら美人でモテるタイプだ。


「そういや兄ちゃんらて、探偵さんなん?」


「いや、探偵…もするけど、なんでも屋をコンセプトとしたカフェやってるんよ。ちょうどお客さん増えてきたからバイト雇いたいなぁ〜って思っててさ。」


「良いん?ウチ勝ち気やからケンカもすぐにしてまうし…迷惑かかるよ。」


「弟さんがたの学費も稼ぎたいんやろ?ええよええよ。1回来てみて、あかんかったら次探せばええがな。サーシャちゃん可愛いし、絶対にええとこあるて。」


「でも屁はちょっと勘弁してな。」


頭の後ろで腕を組み笑顔のパルム。

サーシャは少し悩んでいる顔ではあるが、そういう事ならとゆっくり立ち上がり2人に着いていくことにした。






「ほな…私カプチーノとハムサンドイッチお願いしますねぇ。」


「私はアールグレイにキャラメルケーキを。」


「あいよぉ!!!ほなご注文繰り返しますね!カプチーノが………」


貴婦人の注文を取る。

サーシャが働き始め1週間。

みるみるうちに仕事を覚え、元気よく働いている。もう少しカフェの店員っぽくして欲しいのだが、覚えられないのか覚える気がないのかラーメン屋のような対応しかしない。

しかしどうやらそれが受けたらしく、客足がまた増えた。

それにサーシャは顔も良ければ胸は大きくお尻は控えめ、腰のくびれは美しいプロポーションなので男性客も増えたのだとか。

そう、宇宙の男みなスケベ。

なにはどうあれ、サーシャ目当てでも客が増えたのは良い事である。

料理の腕はまずまずであるが、これから覚えていけばいい。

それにメイドでも無いのにも関わらず、自身が考案した萌え萌えオムライスなども人気でありトリスコーヒーに大きく貢献している。

雇って正解である。

文里子さんに事情を全て話しており、納得はいっていないもののサーシャがそうしたいと強く前に出るものなので反対出来なかったのだろう。

家にお金が無いのは何も文里子さんのせいではない。ここまで育ててくれた母、そして大事な弟たちのために働きたいというのだ。

これがサーシャが勉強したいのに我慢しているとかであればまた話が違ったであろう。

そもそもサーシャは学弁は苦手である。

しかし四則計算ができるので十分である。

微笑ましくそれを眺める銀之助とパルムであった。


「は〜い!ご注文お伺いしますわ!」


ブッ


「相変わらず元気だなぁサっちゃん。良いことだぜ。ん?今屁こいた?」


常連のクエスチョナーとグレートである。

クエン酸をキチンと常備した上で来店。

もはやサーシャからしても顔馴染みとなった。

服が擦れた音だったのだが、屁のような音に聞こえたのだ。

ほら、そういう時ってあるじゃん?


「こいてへんわぁぁぁっっっ!!!いつでもかつでも屁こく思うなよ!!!!!!!!!」


「いや、いつでもかつでも屁こくやん…。」


その瞬間バカでかい音と爆風が店内に鳴り響いた。


「「「いやこいとるがなぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッーーーーーー!!!!!!」」」


因みにコーヒーとクエン酸などのサプリ全般は一緒に飲むのはよろしくない。

飲むならば片方を飲んでから少なくても1時間は空けよう。

ナレーターとのお約束だぞ★










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