第2話 ようこそ学園都市へ
『ニュース、ジャポンッ!!』
「おはようございま~す。はい、今日は四月一日。新年度も始まったということで、全国の学校では入学式が行われるということで。……アイリちゃんがとある学校に向かっているそうです。アイリちゃ~ん」
ニューススタジオにいるおじさんの呼び声に答えるように、中継映像に切り替わった。
「みなさん! 私はここ、東京都学園都市駅に来ております!」
元気ハツラツなリポーターが、近未来的なデザインの駅から現れた。
「なんと学園都市は久方ぶりのメディア解禁! その理由となったのは、誇張抜きで全世界が注目する”例の彼”が入学するからです! 気になりますよね? そうですよね? では、レッツゴー!!」
リポーターは駅から続く、広い道路を歩き始める。
「ここが学園都市。才開発の最前線であり、世界最高の機関です。もう一度言います、世界最高の才開発機関がここ東京にあります。見てください、この景色を!」
駅から続くこの道路を彩る桜並木。そのまま真っすぐ進むと、特設された入学式会場が現れた。
「見えてきましたよ、あの場所で天下人八雲が薫陶を受け、本日! 未来の英雄が生まれることになります!!」
赤い絨毯が敷き詰められ、即席とは思えない木彫りの壇上には、艶やかな茶色が照る演台が置かれている。
その正面に並べられた椅子も、パイプ椅子とは違い一脚一脚が高級品だと分かる程のしっかりとした作りだ。
「全国有数の神童たちということもあり、偉人たちの血を引く名家ばかりです。伊達家、武田家などの戦国武将は勿論、政治家先生たちのご子息、ご息女。ここにいらっしゃる方々で日本が動かせると言われております」
リポーターの説明通り、この場にいる保護者たちはどういう訳か金持ちが多い。理由は不明だが、入学式前後には教員たちの財布が分厚くなるそうだ。
世界各国の金持ちが我が子を札束で入学させているという噂があるとか。因みに、米国の教育長官も来賓として出席している。
「はい、右手をご覧ください! ここは学生たちが放課後や休日に利用する大型ショッピングセンターです! 有名建築家の熊五郎先生がデザインされた木材を作った世界に優しい建築物なんです!」
リポーターは続いて、
「この大通りを挟んで反対側には、なんとサバンナがありま〜す。……というのは冗談ですよ? 実は、この景色は高画質でリアルな風景を映し出す空中ディスプレイなんです! この奥側には、学園都市の訓練場があるそうですが、最重要機密なので公開不可となっております」
身振り手振りをする女子アナの説明が終われば、カメラは再び、道路の真ん中に作られた入学式特設ステージへ。
『新入生、入場です』
アナウンスが聞こえたかと思えば、壇上に桜吹雪が巻き起こる。
「――何かが始まったようです!?」
それが消えたかと思うと、緊張した面持ちの新入生たちが入場を始めた。
「凄いです! 壇上の桜吹雪の中から、新入生が続々と入場しております!! 彼らが日本の、世界の未来です! ここに集う神童たちは、奥に悠然と佇む大きな門の更に奥、あのお城で三年間勉学に励みます。スタジオの皆さん、凄くないですか!? あのお城、戦国時代からあるそうですよ? 過去と未来が融合した場所で――」
女子アナがテレビカメラにグイっと顔を近づけ説明していたが、
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』
割れんばかりの歓声に掻き消された。
どうやら、来賓も新入生もメディア関係者たちも空を見上げ、熱狂しているようだ。
「凄いですッ、早く早く上、上ッ!!」
女子アナも例にもれず、大口を開け子供のように無邪気に飛び跳ねていた。
雲一つない晴天の空には、いくつかの影が浮かんでいる。
「ペガサスです!? 龍もいます! おとぎ話に出てきた生き物たちが、学園都市が!! 私たちを歓迎してくれているようです!!」
科学技術が発展した現代で神話の生き物が空を舞う。この光景を作り出す力が、
――才(さい)。
英語表記ではPSI。単純に言えば超能力だ。
海外にて、異常な力を有する子供たちが発見されたことを皮切りに、世界各地で瞬く間にその概念が浸透していった。
歴史書を開けば、その能力を有した偉人は数多くいる。
世界各地のシャーマン、陰陽師、錬金術師。それらは才による事象だと言われている。才の訓練、能力開発を行うのがここ学園都市。
つまりは、ここにいる子供たちは全員が選抜された才を有する超能力者たちなのだ。
「す、すごい……こんなの、これが才……」
才が当たり前になった社会だが、その行使には制限があり一般人が目にする機会は多くない。ここまでの鮮明で鮮烈な力を目にすることは人生で一度あるかどうかだ。
大人たちは口をあんぐり開け驚き、新入生たちは自分がアチラ側に立てるのだと胸を躍らせる。
だけれども、まだ入学式は序章に過ぎない。なにせ、蟻のように群がるメディアたちのメインディッシュはまだ運ばれていないのだから。
『ようこそ学園都市へ』
どこからともなくしわがれた老人の声が聞こえる。これも才を使って声のみを飛ばしているようだ。
『ふらりと現れた天才は、学園が管理していた至宝を掻っ攫い天下人まで突き進んだ。分かるだろう、八雲だ』
その名前に全員が息をのんだ。
『奴は、まごうことなき天才だった。だが、時代は次なる天下人を欲している。アイツの面倒を見た私が宣言する、次の天下人はお前たちの中から生まれる!!! いつまでアイツを見上げている! 才を磨け、学園都市が誇る至宝が答えるまで! 勝て、勝て、勝ち続けるんだ!!』
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ギャラリーが大歓声を上げた。メディア関係者も熱に浮かされたように雄たけびを上げる。
『新入生代表、安倍満(あべみつる)。言葉でもって意思を示せぇ!!』
熱気に包まれた会場を見渡す壇上に、見目麗しい金髪の青年が現れた。
均整が取れた彫が深い顔立ち。長いまつげによる涼し気な目元。背も高く、八頭身ほどでそこらのモデルよりもスタイルがいい。清涼感と近寄りがたい高貴さを感じる。
リポーターの女性が恍惚とした表情を浮かべるのも無理はない。
「か、彼が天下人の弟、安倍満君です!! 俳優さんのようなカッコよさです!!! ヤバいくらいにタイプですッ!!!」
大声を出しても問題はない。学園都市の入学式は厳格からはほど遠い、野蛮と紙一重の位置にあるのだから。
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