悪徳領主の俺がエロいメイドに屈するわけがない!

暁ノ鳥

第1章:最悪の出会いと純情領主の受難

「フン、愚民どもが何を喚こうが知ったことか! もっと搾り上げろ! 俺の新しい拷問器具の資金が足りんのだ!」


 執務室に響き渡る俺、レオン・バルトハルトの声は、我ながら悪徳領主の鑑(かがみ)だと思う。

 

 窓の外では、相変わらず痩せこけた領民どもが何やら抗議の声を上げているようだが、そんなものは知ったこっちゃない。

 このバルトハルト領は俺様の領地。


 俺様が法律、俺様が絶対なのだ。

 

 側近のリカルドが、氷のように冷たい表情を一切崩さずに報告を続ける。

 

「しかしレオン様、これ以上の増税は民の生活を著しく圧迫し、反乱の火種となる可能性も……」

「うるさい、リカルド! 貴様はいつから民の代弁者になったのだ? 俺の決定に口を挟むな。それとも、お前もあの新しい『アイアンメイデン改』の最初の客になりたいか?」

 

 俺がにやりと笑ってやると、リカルドは僅かに眉をひそめただけで、それ以上は何も言わなかった。

 つまらん奴だ。

 少しは怯えた顔でもすれば、今日の酒がうまくなるというものを。


 夜は、悪徳領主の俺様にふさわしい、悪趣味な大宴会だ。

 館の広間には、高級ワインの樽が並び、テーブルには山の幸、海の幸がこれでもかと盛られている。

 もちろん、これらも全て領民どもの汗と涙の結晶だが、それがどうしたというのだ。

 俺様が楽しむために存在するのが領民だ。

 

「レオン様、今宵も素晴らしい宴でございますね」


 取り巻きのクソ貴族の一人が、媚びへつらうような笑みを浮かべて近づいてくる。

 

「当然だ。この俺、レオン・バルトハルトが開く宴だからな。さあ、もっと飲め! もっと食え! そして俺様を楽しませろ!」


 俺が高らかに宣言すると、広間は欲望と喧噪に包まれる。

 

 その時だった。

 

「レオン様、こちらのお酒もいかがですかしら?」


 新しい酌婦だろうか、やけに胸元の開いたドレスを着た女が、なまめかしい動きで俺の隣に座り、豊満な胸を押し付けるようにして酒を注ごうとしてきた。

 

 瞬間、俺の全身の血が沸騰し、頭が真っ白になる。

 

「ひっ……! ち、近寄るな! な、馴れ馴れしいぞ、この無礼者が!」

 

 俺は顔を真っ赤にして叫び、椅子から転げ落ちそうになるほどの勢いで女から距離を取った。

 女はきょとんとした顔で俺を見ている。

 周囲の貴族どもも、何事かとこちらに注目している。

 

 くそっ! まただ! この俺としたことが、女に近づかれただけでこのザマとは!

 

(ああ……また女の前で格好悪いところを……くそっ!)

 

 俺は幼少の頃のトラウマのせいで極端に女性が近づくことを嫌っていた。

 内心で悪態をつきながら、「ええい、今日の宴は終わりだ! 全員下がれ!」と虚勢を張って宴を強引に終わらせた。


 ◇

 

 翌朝、昨夜の失態を思い出して頭を抱えていると、リカルドが王国からの公式書簡とやらを持ってきた。


 「なんだ!? なにか面倒ごとか!」

 

 俺は苛立ちを隠さずに書簡をひったくり、乱暴に封を切る。

 羊皮紙に踊る小難しい文字を追っていくうちに、俺の顔面はみるみるうちに蒼白になっていった。

 

「な……!? エロメイドが、二人も俺の元へ来るだとぉ!? 一人は『調教のプロ』で、もう一人は『見習い』!? 王国は何を考えているんだ!」

 

 頭から湯気が出るほどの動揺。

 もはや怒りの炎ではなく、完全に「混乱の蒸気」だ。

 俺は執務室の床を意味もなく右往左往する。

 

「はい。『腐敗貴族更生プログラム』の新型モデルと伺っております。より効果的なアプローチを模索しているとか……特にレオン様のような『特殊事例』には効果的かと存じます」


 リカルドは相変わらずのポーカーフェイスで、しれっと余計なことを付け加える。

 

「俺を実験台にする気か! 俺は悪徳領主だぞ! エロメイド如きに……しかも二人も……うおおお、どうすればいいんだ!?」

 

 悪徳領主としての威厳もクソもない。

 完全にパニック状態だ。

 

 メイド……それも『エロ』がつくメイドが二人もだと?

 

 想像しただけで心臓が口から飛び出しそうだ。

 確かにエロいことには興味がある。

 

 夜な夜な怪しげな書物を読み漁ってはいるが、それはあくまで知識としてだ!

 

 実践経験など皆無に等しいこの俺に、いきなりプロと見習いのコンビをぶつけてくるなど、王国は本気で俺を潰す気か!?

 

 しかし、俺の心の一部では(……どんな女なんだろう……ゴクリ)と、不謹慎にも期待している自分がいることに気づき、さらに自己嫌悪に陥るのだった。


 ◇

 

 そして、運命の日はやってきた。

 

 謁見の間。

 俺は玉座(に見せかけた、ただの豪華な椅子だ)にこれでもかとふんぞり返り、必死に悪徳領主としての威厳を演出する。


 だが、手のひらは汗でびっしょりだ。

 心臓の音は、まるで攻城兵器の太鼓のようにドッドッドッと体中に響いている。

 

 リカルドが「フィオナ様、リリア様、お入りください」と声をかけると、まず、ゆったりとした足取りで一人のメイドが入室してきた。

 

「レオン様、本日より『特別メイド』としてお側にお仕えいたします、フィオナ・ルクレールと申します。わたくしの全てを懸けて、レオン様を『新たなる高み』へとお導きいたしますわ」

 

 清楚なデザインのメイド服に身を包んでいるはずなのに、なぜか全身からむせ返るような色香が漂ってくる。

 ウェーブのかかった銀髪、妖しく細められた青い瞳。

 完璧な淑女の礼とともに送られた流し目に、俺はゴクリと喉を鳴らし、顔がカッと熱くなるのを感じた。


 こ、これが『調教のプロ』……!

 

 だが、俺の動揺はそれだけでは終わらなかった。

 

 フィオナの後から、もう一人のメイドが慌てた様子で小走りで入ってくる。

 

「あわわっ! わ、わたくし、リリア・フローレスです! 見習いですけど、い、一生懸命がんばりますので、よろしくお願いしあっ!」

 

 舌足らずな挨拶が終わるか終わらないかのうちに、そのメイド……リリアは、何もないところで派手にすっ転んだ!


 ドターン! という派手な音とともに、リリアの短いメイド服のスカートが盛大にめくれ上がり、フリルのついた可愛らしい純白の下着が、俺の目の前に惜しげもなく晒される!

 

「ぶはぁっ!!」

 

 俺は鼻血を吹き出し、椅子から盛大に転げ落ちた。

 

「み、見え……! 見えてる! いろんなものが丸見えだぞ、バカ者ぉ!」


 気絶しかけながら叫ぶ俺。

 

 頭の中では白いフリルの下着姿が残像となって焼き付き、脈打つ鼻腔からは止まらない血の匂い。

 目の前で転んだリリアのうっすらと透ける桃色の肌。

 

 そしてフリルの形状まで、あまりに鮮明に脳裏に刻まれていた。

 しかもそのパンツは、単なる白ではなく、若干の透け感があり、裏地の刺繍の一部まで確認できるほどだった。

 

 こんな情報、知らなくていいのに!

 

「あっ!  ご、ごめんなさい!  レオン様!」

 

 リリアは慌てて立ち上がろうとするが、スカートの裾を踏んでさらに体勢を崩し、今度は四つん這いになる。

 その姿勢がまた、胸元から覗く谷間を強調してしまい……。

 

「また見えてるぞおおお!」

 

 俺はさらに鼻血を噴出させながら叫ぶ。

 この状況、どうやって乗り切ればいいんだ!?

 

 それまで完璧な立ち振る舞いを見せていたフィオナが、小さくため息をついた。

 

「あらあら、リリアさん。早速レオン様に強烈なご挨拶ですこと」

 

 彼女の声には、僅かな呆れと、どこか計算された面白がりが混じっている。

 フィオナは優雅にリリアに近づくと、さりげなく彼女を立ち上げ、スカートを整えてやった。

 

 その所作にはプロの技を感じる。

 だが、それが「メイドとしてのプロ」なのか「エロメイドとしてのプロ」なのか判断がつかず、混乱に拍車がかかる。


「わ、私としたことが……本当にごめんなさい!」

 

 リリアは半泣きになりながら、小刻みにお辞儀を繰り返す。

 

 その度に胸が揺れて……いや、見てはいけない!

 

 リカルドが悪徳領主たる俺の救済に来た。

 

「レオン様、お怪我はございませんか?」

 

 彼は慌てて白いハンカチを取り出し、俺の鼻血を拭おうとする。

 このままでは悪徳領主としての威厳が地に堕ちる。

 俺は必死に正気を取り戻そうとした。

 

「う、うるさい!  大丈夫だ! これくらい!」

 

 俺はリカルドの手を払いのけ、自力で立ち上がる。

 

 プロのエロメイドと天然ドジっ娘メイド。

 この二人による波状攻撃は、まだ始まったばかりだというのに、俺の純情な心はすでに風前の灯火だった。


 ◇

 

 その夜。

 俺は自室のベッドの中でガタガタ震えていた。

 紺色の高級シルクのナイトウェアを着ているというのに、心の底から冷えるような恐怖感が全身を支配している。


「今日はもう何も起こるなよ……頼むから……」


 あの衝撃的な謁見の後、俺は早々に執務室に引きこもり、リカルドに「メイドどもは絶対に俺の部屋に近づけるな!」と厳命しておいた。

 だが、俺は本能的に今夜が波乱の幕開けになることを予感していた。


 枕に頭を埋めながら、昼間の出来事を思い出す。

 

 あの白いフリルの下着。

 転んだ拍子に見えたリリアの赤らんだ表情。

 

 そしてフィオナの、まるで獲物を狙う蛇のような妖艶な微笑み。


「くそっ、考えるな、考えるな……」


 枕に顔を押し付け、そんな記憶を振り払おうとした瞬間。


 カチリ。


 静かに寝室の扉が開いた。

 そこに立っていたのは、フィオナだった。

 

 しかも、昼間の清楚なメイド服とは打って変わって、体のラインがくっきりと浮かび上がるシルクのネグリジェの姿で!


 月明かりが窓から差し込み、その光の中でフィオナのシルエットが浮かび上がる。

 透けるような薄紫色の生地は、彼女の曲線を隠すどころか強調していて、まるで天使のような、いや悪魔のような存在感を放っていた。


「レオン様、お休み前の『特別リラックスタイム』でございますわ」


 吐息が聞こえてきそうなほど甘い声でフィオナが微笑む。

 その表情には、純粋なサービス精神というよりは、何かを画策している策士の色が見え隠れしていた。


 月明かりに照らされたその姿は、まさに夜の妖精……いや、サキュバスか何かだ。


「き、貴様! なんだその格好は! ええい、リカルドは何をしている!」


 俺はベッドの上で後ずさり、頭の中が真っ白になる。

 心臓は狂ったように脈打ち、喉は一瞬で乾ききった。


 フィオナはそんな俺の反応を愉しむかのように、くすくすと笑いながら近づいてくる。


 彼女の動きは優雅で滑らか。

 まるで床を滑るように、俺のベッドに向かって一歩一歩近づいてくる。

 その動きのたびに、シルクのネグリジェが月明かりを受けて妖しく輝いた。


「レオン様の緊張を解きほぐす、わたくし秘伝のマッサージを……」


 その細く白い指が、俺の肩に触れようとした、まさにその瞬間だった。


 バタン! と勢いよくドアが開き、枕を抱えたリリアがパジャマ姿で飛び込んできた!


 淡いピンク色のパジャマは、彼女の幼さと無邪気さを強調している。

 だが、首元のボタンが一つ外れており、鎖骨あたりの柔らかな肌が月明かりに照らされていた。


「レオン様ー! お部屋が分からなくなっちゃって、怖くて眠れませーん!」


 リリアはそのまま、まるで計算されたかのようにベッドにダイブ!

 見事に俺の胸に顔をうずめる形で抱きついてきた!


 リリアの持つ自然な温かさと柔らかさが、俺のナイトシャツ越しに伝わってくる。

 彼女の甘いミルクのような体の匂いが鼻腔をくすぐり、俺の思考回路はショート寸前だ。


「ひぃっ!?」


 俺はカエルのような声を出して硬直する。

 両手を宙に浮かせたまま、どこにも置けずに固まってしまった。


 フィオナは一瞬だけ眉をひそめた。

 彼女の完璧な計画が、このドジっ娘メイドによって乱されたことへの苛立ちだろうか。


 だが、すぐに妖艶な笑みを深める。

 彼女の目が危険な光を放った。


「あらあら、では、三人で『仲良く』お休みいたしましょうか?」


 言いながら、リリアを抱きしめて硬直している俺の背後から、優雅な動きで上がり込んできた!


 背中には別の温もりと、フィオナの香る高級香水の芳香。

 そして耳元には彼女の熱い吐息が掛かる!

 

 前面にはリリアの純朴な温かさと無邪気な寝息(?)!


 左右から異なるタイプのメイドに挟まれ、甘い香りと柔らかな感触、そしてフィオナの妖しい囁きとリリアの寝息が奏でる禁断のハーモニー!


 ドクンドクンと脈打つ心臓の音が、自分の耳にも聞こえるほど。

 頭の中は真っ白で、何も考えられない。

 体は熱く、それでいて冷や汗が背中を伝っていく。


 俺の純情な理性は、この究極の板挟み状態によって、完全に、そしてあっけなく崩壊した。


「だ、誰か……助け…………(白目)」


 俺の意識は、甘美な闇の中へと急速に遠のいていく。

 

 悪徳領主レオン・バルトハルト、齢二十三歳。

 まさかこんな形で、人生最初の『天国』と『地獄』を同時に味わうことになろうとは、夢にも思っていなかったのである。


 意識が完全に失われる直前、何かがくすぐるように耳に囁いた。


「『調教』の第一夜、楽しい夢を、レオン様……♡」


 ――それが、フィオナの計算された囁きなのか、俺自身の妄想なのか、もはや区別がつかなかった。

 

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