未来

花岡 紫苑

future,

あの日落としてしまった夏の前日を

きみとふたりまた、完成させるのさ

取り逃した蜻蛉が飛んでいった

気づけばもう大人になって


「10年後のぼくら」なんて空想より案外近くて

まちが少し変わったのと

隣にいる人が変わったくらいかな


花火はとっくに向こうで上がっているんだよ

ふたり背にして歩いた、昨日にもう

なんてことばっかり言っていたら何も変わらないよね

あの日にはもう帰れないんだよって

そう言い聞かせて


おきにいりの漫画も、小説も、

映画も、ふと立ち止まったものも

置き去りにした暗号みたいで

忘れようとしたってあちこちに残っているのだもの


粉々になった日々を集めて繋いでいくんだよ

踏みつけた欠片が突き刺さっても

「10年後」のことなんて何にもわからないけど

きみがいなくちゃ始められないんだよ


繰り返して、あの夏の前日を

エンドロールはなくたっていいよね

擦り減っていつか、嘘に代わっても

ぼくらがそのうち、大人になっても

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未来 花岡 紫苑 @cicadaism

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