3-6

「あぁ、それで責任を感じてる――みたいな感じかー。でもさ、確かにびっくりしたけど、あの時点でもう春の意志は固まってたんじゃないかな? もしかして自分の言葉がーって思っちゃってるのかもしれないけどさ」

 夏希は一息吐いてまた続ける。

「そんな、自分の人生を人に全て預けてる人なんていないと思うよー。だから冬香が春を殺したんじゃないよ」

 夏希はそう言うと、口角を上げた。

「夏希の言う通り、遺書まで用意してたんだから……それで冬香が殺したっていうのは考えすぎな気がする」

 今まで黙り込んでいた秋穂も口を開く。

 二人に慰められるようなことをしてしまった。

 もちろん、春が自分のせいで死んだという責任は感じている。きっとそれは、二人が何を言おうと消えないと思う。しかし、冬香がそれと同時に春の出来事で揺らいでいるのは責任ではなく自分の日常についてだった。

 美大へ行くという夢を持ち、三人の自殺を止めるという意志の元、化け物部へと入った。

 しかし、春を止めることができなかった。

 でも、もし今春がいたとして――冬香は春を止めただろうか。

 春の親は冬香が思っているよりずっと冷徹な人だった。

 この残酷な世界の中で、何を目指して生きていけばいいのか――冬香はよく分からなくなっていた。

「……そっか」

 結局その時、冬香は言えるのはそれだけだった。



 八月二十二日。

 あれから会う頻度は前よりかはるかに減ったが、冬香たち三人は定期的にあって同じような話をしている。

 さすがにそろそろ部活に行かねば、と思い、今日久しぶりに学校へ行った。

 汗も滴る暑さの中、夏休み初めての部活動だ。

 夏の日差しが痛いほど感じられた。



「……秋穂?」



 美術室のドアを開けると、そこには意外な人物がいた。

 冬香は思わず目を丸くする。

 暑い暑い休みの日にエアコンも効いていない、誰もいない、そんな状況下では絶対に来なさそうな人物が。

「そんなに驚くこと?」

 秋穂はガサゴソと押し入れの中にある段ボールの中を物色している。その段ボールは長年置きっぱなしで大したものは入ってないというのに。

 まぁ、そんなことはどうでもよかった。秋穂が美術室にいる。しかも秋穂はキャンバスを立てかけ、絵の具のついたパレットを横に置いているではないか。

身長が小さいせいで、ただでさえ大きなキャンバスが更に大きく見えた。

 高校生になってから、こんな光景を見るのは初めてだった。冬香はしばらく来ていなかったから気づかなかったが、秋穂はもっと前から頻繁にここへ来ていたのかもしれない。

 ――突然どうして。

「えっと、ここ最近いろいろと考えさせられることも多くて、自分なりにちょっと表現したらなんか出てくるかと……まさかそんなに驚かれるなんて。え、何か喋って」

 まるで冬香の心を読んだかのように、秋穂は美術室に来るようになった理由を語り始めた。理由というより、言い訳のように聞こえるが。

 秋穂は恥ずかしそうに頬をかいた。

 驚きすぎたせいか、しばらく学校で話していなかったせいか、冬香は黙ったままだった。

 ――秋穂もまた、向き合おうとしていた。

「こうやって何か描いてたら、自分の意見も見つかるかなって――」

「……なにを、かいてるの?」

 ようやく出た言葉はそれだけだった。

 秋穂は何も言わずに冬香の方にキャンバスを向けた。

 キャンバスに映っていたのは夕焼け。冬香はその絵を怖いくらいに凝視する。

「夕焼け? ――あぁごめん。それって写生か何か? なんか夕焼けって秋穂っぽくなくない? ほら、秋穂ってクールな感じで夜って雰囲気じゃん」

「そんな風に思われてたのか……。写真とかは参考にしてないんだけど……記憶? ほら、昔にみんなでレコーダー埋めたの覚えてない?」

 秋穂の言葉を元に、冬香は自身の記憶をたどった。

 ――レコーダー……?

「小学生の時にタイムカプセルに憧れて埋めたんだっけ」

 おぼろげながら、昔のことを思い出す。

 確か山の辺りに――。

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