1-2

「そうだ、冬香。話変わるんだけど、最近話題になってる『予言』……って知ってる?」

 まるで話を逸らすかのように秋穂は別の話をし始めた。

 そして秋穂は何かいいことでも話すかのように、にやりと笑った。

「は……予言? なにそれ」

 秋穂の言葉に対し、冬香は怪訝な顔を見せた。

 いきなり急転する話題に冬香は疑問を抱く。

「最近話題なんだけどさ……『二〇××年十一月十日、隕石によって世界が滅ぶ』ってやつ」

 そう言って秋穂は机に頬杖をつく。

 ――へえ、そういうのがあるのか。というか、秋穂も興味あるのか、そういうの。意外だ。秋穂はそういったオカルト的なものには興味がないと思っていた。

「まぁ保証もないし、これ自体大昔のなんかにちょこっと書かれてただけらしいから。ネットで少し騒がれてるくらいだよ。でも、冬香は信じるのかどうか聞いてみたかっただけ」

 普段からインターネットは嗜む程度にしか見ない冬香は全く知らなかった。

 だが、そういった予言の類がよくあることは冬香も知っている。特に今はインターネットがかなり普及していることもあり、誰かが書いたデタラメでも簡単に広がってしまう。近年のそういった情報の拡大は恐ろしいものだ。全くの嘘をさもあたりまえかのように語ることができる。

「いや、私は信じないかな」

 と、冬香は首を横に振った。

 ――変なの。と冬香は心の中で呟いた。

 インターネットがそういうものだという風に捉えている冬香にとって、そんな話は時間の無駄に過ぎなかった。

 動画配信サイトであれば、そのような動画のコメント欄には諦めている者や怯えている者、嘲笑している者など様々いるが、冬香は嘲笑しているタイプの人間である。

 全く信じていないわけではないが、それを気にしている時間があれば、他のことができるだろう、と思ってしまう。

「ふlん、そっか」

 自分から聞いたわりには、秋穂はなんだか興味がなさそうにそう言った。今の会話は一体なんだったんだ、と思わず心の中で突っ込んだ。

「冬香ー次移動だよー」

 仲の良い、いつも行動を共にしている友達が呼んでいる。その上、友達は「行かないの?」と冬香を急かしている。

 冬香は「はーい」と軽く返事して秋穂の元を離れた。

 その時も、冬香が秋穂に手を振ることはなかった。



 そのまま眠い目を擦りながら授業を受け、時間が進み、時は放課後。

「今日も誰もいないか」

 冬香は独り、ぽつりと呟いた。

 部活に行ったはいいものの……案の定、美術室には誰もいなかった。

 美術部にはほとんど積極的に活動している人がいない――いや、もはや毎日のように来て絵を描いているのは冬香くらいだった。

 それでも冬香は周りを気にせずに一人で絵を描き続けている。

 今日も描きかけの冬香の胸辺りまである巨大な五十号のキャンパスと、アクリル絵の具を用意して描き始めた。

 当然だが、誰もいないので終始無言である。

 今描いているのは空想の人物の肖像画である。

 動物――犬を描こうとしていたのだが、ポメラニアンにするか、それともマルチーズにするか決め切れなかったのだ。だから人間を描こうと思ったが、いささか芸能に興味がなさすぎて、誰も頭に浮かばなかったのだ。

 それに、空想の人物であれば理想の顔が描けるし、展示会にも出展できる。

 目の前にいるのはゲルマン系の絶世の美少女だ。

 私が一定数の友達しかできないのは部活のせいもあるんだろうなぁ、なんて考えながら冬香は筆を走らす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る