第九話:記す者
書かれたことは現実となり、
書かれなかったことは“存在しなかった”ことになる。
*
紙の世界の中。
柊 静は、自分の記憶や感情が文字になって空間を構成する“書の中”にいた。
目の前には、あの《記録補遺》の本。
その隣に立つ、黒衣の男──零崎 弦が再び姿を現す。
「君はまだ、理解していないようだね。
書くということは、世界を選ぶということだ」
静は問い返す。
「“私を殺す”と書いてしまったら……私は死ぬのですか?」
零崎は静かに頷いた。
「可能性がある限り、それは“真実になる”。
記録とは、可能性の選別であり、最終的な“世界の確定”なんだよ」
*
目を覚ますと、閲覧室にいた。
自分の“死体”は、もうどこにもない。
だが手には、しっかりと《記録補遺》が握られていた。
そしてその表紙が、静かに変化していた。
『記録者 柊 静』
彼女が“記録される側”から“記録する者”になった瞬間だった。
同時に、図書館の中で異変が起きる。
書架が勝手に揺れ、ページがめくれ、いくつもの“記録されていない物語”が出現する。
──読者のいない本。
──作者を持たない原稿。
──誰にも貸し出されたことのない日記。
静は悟る。
(これらは、“記されなかったままの命”)
静はペンを取り、書き始める。
「ここに、ひとつの存在を記す──」
その瞬間、世界が安定し、暴走していた書架が止まった。
図書館が、彼女を“記録者”として認識したのだ。
だが、零崎の言葉が耳に残っていた。
> 「記録者には、常に“代償”が伴う」
その代償とは──?
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