君は誰?

東井タカヒロ

君は誰?


僕は、そのを忘れることが出来ない。

僕は、その人の姿が幻のように霞かかる。

僕は、離れることで、その人をより思い出す。

僕は、僕の中で記憶の追想をする。

僕は、その人を鼓動のように思い出す。

僕は、その人を想うことしかできない。

僕は、雨の日しかその人の姿を知らない。

僕に、その人は止めるように言い聞かせる。

その人は人のようで、人ではない、何か。

僕は███。

その人は、人だった。

その人は人のようで、人ではなかった。


だから、僕は聞くんだ。君に。可憐な少女の彼女に。

「君は誰と?」と。


彼女はただ、僕を信じるだけだった。

電車の来ない何処か分からない駅のホームで彼女は僕という車掌を待つ。

彼女に歩み寄ろうとしても、広がらず、縮まらない。

ほんの少しの時間が彼女と僕を遠ざける。

「どうして君は何度も僕の前に現れるんだ?」

彼女はただ、そこにいて、そこの世界にいて、僕は彼女が幻だと知っている。

「さぁ?あなたが望もうと望まないと、私という私はあなたから離れることはない」

彼女はまるで自分のことのように他人のことを話していた。

他人?いや、確かに彼女は彼女のことを話している。

彼女は█████。

僕はまだ█████。

そうでなければいけない。

彼女はただ、救いと絶望を求め、列車を待つ。ひたすらに。

「ねぇ、あなたは列車に乗せてくれないの?」

そんなことを彼女は知っているかのように言った。

「僕は乗るよ、明日という列車に。」

「そう、それは悲劇ね」

彼女は哀しみを浮かべながら、僕を疑う。

「君は誰?」

僕はそう、問いかける。

「…あなたがそうするように私もあなたを待つのよ」

僕はそうして布団から起き上がる。

「不思議な夢…夢?だった」

何故か、いつものそこにいる。

「また会ったね、これで何度目かな」

僕はまた、記憶の追想をする。

悠久の牢獄。出ることは叶わないように、ここは出れない。

「そう、それは悲劇ね」

彼女は僕の知る言葉しか話せない。

僕が知らない言葉は彼女も知らないし、僕の知ることは彼女も知っている。

「ねぇ、あなたはいつまであの世界にいるの?」

「僕は君が存在しない限り、僕は何度でもここへ招かれるだろうね」

「それはあなたの偶像、虚数、存在はしない。あなたはここに存在する。」

僕はベンチへ腰掛ける。

彼女はただ、列車を待つ。

「これは僕がしたい、贖罪みたいなものだ」

「あなたがしたい贖罪は何にも犯されない。何も成せない。」

彼女はただ、僕のことを知る。嘘偽り無く。僕は嘘を吐く。

「君を誰?」

それは僕への写し鏡。

僕はまた、この世界で始める。

彼女はただ、来るはずのない最終列車を待っている。

「あなたは分かっている。でも、それを知ることは難しい」

彼女は僕のことを信じながら、疑っている。

矛盾している。それでも彼女は僕を知っている。

「僕は何度でもここへ招かれる。それは君が知ることだ」

不思議と思う。僕は何故ここへ来るのか。何故こんな問答を繰り返すのか。

「あなたはただ、欲しいだけ。█を。」

あぁ、なんと無く分かった気がする。

彼女は█████。

掲示板の明かりが僕らを通り抜ける。

「ほら、もう少しで列車が来るぞ」

彼女はただ、線路に落ちた。

僕は彼女を思い出す。

彼女の声、瞳、形、色を。

だが、彼女は霞かかるように不明瞭だ。

「あなたがそうしているうちは、私もあなたも救われない。偽善だ。」

「あぁ、偽善だ。偽善で充分ではないか」

「それが救われない偽善でも?」

彼女はただ、その場所、その空間、その世界を居て、この世界から弾き出される存在。

生きるか、███か。対を成す。僕らはそれを知る。

永久なんて存在しない。あるのはただ、想う気持ちだけだ。

「そう、それがあなたの答えなのね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君は誰? 東井タカヒロ @touitakahiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説