何もしないで暮らしたい僕が、気づけば異世界を救ってました
katura
気づいたら森の中だったけど、まず風呂がほしい。
目を覚ましたとき、俺は森の中にいた。
……いや、厳密に言えば「信じたくなかったけど、どう見ても森だった」ってやつだ。見上げると、隙間なく広がる木々の天井。聞こえるのは風に揺れる枝葉のざわめきと、鳥の鳴き声、あと――地味に近くで何かの足音。
「いやいやいやいや、ちょっと待て。夢だよな、これ。昨日は普通に家の掃除してたし、最後に押入れの中で古い木箱を――」
……開けた瞬間、白い光に包まれて、その先がこれか。
なんかテンプレだな。ライトノベルで見たことある。というか俺は今、異世界に転移したのか?
「いや、待て待て待て。冷静になれ、久保寺拓人。パニックになるのはまだ早い」
とりあえず現状を確認しよう。スマホ――圏外。時間、電源まだある。充電ケーブル? ない。水? ない。食料? ゼロ。武器? ない。あっても使えない。
「……まず、生き延びるには、寝床、水、火、食料。この順番だな」
幸いにも周囲には薪になりそうな枝が多いし、乾いた落ち葉もある。石も拾える。なんとか焚き火はいけるかもしれない。
ってか、俺の転移って「勇者召喚」とかじゃなくて、いきなり野放しスタートなのかよ。
「ふざけんな……いや、逆にいいのか?」
誰かの命令に従わされるのはゴメンだ。魔王退治とか、戦争とか、俺の趣味じゃない。だったら、戦わず、静かに暮らすほうがマシだろう。
そんなわけで、俺――久保寺拓人(くぼでら・たくと)、十八歳。人生初のキャンプを、異世界の森で開始することにした。
……なお、このときの俺は、まだ知らない。この森が精霊たちの聖域と呼ばれ、あと数日で俺の生活拠点が「快適すぎて人が帰ってこなくなる異世界の楽園」と呼ばれるようになることを。
今はただ、静かに焚き火の準備をしながら、頭の中で「風呂どうするか……」を真剣に考えていたのだった。
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