食卓大戦

藤野悠人

食卓大戦

 カレーライスは、ルーとご飯を混ぜて食べるか、混ぜないまま食べるか。


 飲み会で、から揚げに勝手にレモン汁をかけるのは許すべきか、許されざることか。


 納豆をご飯にかけて食べるのはアリか、ナシか。


 シチューをご飯にかけるのは有罪か、無罪か。


 食に対する議論は尽きない。飽食ほうしょくの時代を謳歌おうかし、なおかつ古来より食の道をきわめてきた島国・ニッポンにおいて、これは極めて重要な議論である。


 日本人の食へのコダワリぶりを舐めてはいけない。


 太古より毒があると知りながらフグを喰らい、本来なら腐っていると判断するような発酵食品を数多あまた生み出し、四足獣を食してはならぬとされた生類しょうるいあわれみの令の下で「二本足で立つから」という、一休さんでも言い出さない頓知とんちで兎を一羽、二羽と数えて食するような民族である。


 かにを見れば肉のみならず臓腑ぞうふずいまで飲み干し、触手を持つ海洋生物の踊り食いに舌鼓したづつみを打ち、野草の類すら下味をつけて汁物にきゅうする始末である。


 誰かが言った。日本人は生き物を見れば、まず食べられるかどうかを考える、と。


 しかし冒頭の通り、食への探求は、そのまま食事の派閥を生み出した。


 過熱化する論争、激化する舌戦ぜっせん


 各々おのおのが好きなように食すればよい。


 彼らは、そんな中立的な意見を「手ぬるい」と一蹴し、その争いの溝はかつてないほどの深層に達した。


 ここまでくれば、もはや対話など不可能。


 全ての食の戦いを終わらせる戦い。


 戦いの火蓋ひぶたは切って落とされた。


 食卓しょくたく大戦たいせん、開戦である。

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食卓大戦 藤野悠人 @sugar_san010

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