第7話

 草太さんが溜息を吐きたくなる気持ちは、嫌と言っていいほどに分かる。実際、僕もそういう経験をしたことがあるから。けれど、僕には草太さんほど粘り強く語りかけようという気持ちはなかった。だから早々に僕は捨てられたのだが。


「なあ、バイト君」

「何ですか」

「バイト君は、なんでここでバイト始めたんだい?」


ああ、またこの質問。分かっちゃいるけど、本当に面倒だ。多分、草太さんもそう思っているだろう。


「だから、バイト君じゃなくて、菅野です。名前、いい加減覚えて下さいよ」

「そうだよ、じいちゃん。毎日毎日通ってんだから、覚えてあげてよ」


僕はノジさんから、今まで一度も名前を呼んでもらったことがないし、いくら訂正し続けても、笑って誤魔化されるだけで、覚えようともしてくれない。それでも、一応訂正の言葉を喋るも、「あー、そうだったそうだった。まあいいじやねえの」と、諭すように言ってくる。自分に悪気があるとは思っていないらしい。さすが年を重ねてるだけある。かえって関心するのだった。

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