第6話

 硝子戸が開く。「こんにちは」明るく爽やかな声に、僕の心は幾許か穏やかになる。


「草太さん、どーも」

「どーも。これ、良かったら」

「いつも、あざっす」

「ありがとうな」

「いえ」


ポメラニアン(仔犬)ぐらいの重量感がある菜の花を受け取って、花束みたいに抱える。草太さんは週に一度、しかも決まって金曜日に、家庭経営の農園で採れた、出荷できない野菜をお裾分けしてくれる。毎日じいちゃんが迷惑かけてるから、と言って。


「伸びてるからあれだけど、まあ美味しいから」

「ありがとうございます」


 草太さんはノジさんの横に腰を下ろして、ノジさんに視線を合わせる。ノジさんは孫の草太さんのことを凝視する。僕と穴虫さんは干渉しないよう、そっぽを向いた。


「じいちゃん、帰るで」

「やだよ。んなとこ帰るもんか」

「帰らないとダメだよ、じいちゃん」

「やだね。帰るわけないだろお」


顔をプイッと左に向けて、草太さんを見ようとしない。一回は必ず帰りたくないと拒否る。


「はぁ、またか」草太さんは苦笑いで頭を掻いた。

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