第11話 わたしも、エーコとおそろい?
「……が――ハァ、あぁぁっっ!」
私の一部が剥がれて、代わりにエーコの匂いが身体に流れ込んできた。自分の――モモの心臓が熱い。身体が炎で燃えてしまうよう。
(これは――エーコのたましい?)
いやちがう。
(『あいしてる』って言ってくれた……エーコの思いのあつさ)
そうか、『あいしてる』は、こんなに熱いのか。最初は焚き火やかまどの炎のように赤くなったが、もっとだ。ずっと、ずっと熱い『青い炎』。この炎があれば、私はエーコのお荷物じゃなくなる。
(私は、私の力で、エーコをいじめる敵をやっつけられる!)
身体から立ち上る青い炎を、腕と足――背中に集める。モモを覆っていた炎はやがて、まるで大地を駆ける猛獣のようなカタチへと姿を変えていった。
短剣のように長く伸びた十本の鋭い爪と、地面を掴む
そしてその本能のまま――モモは宿の裏手から弾丸のように飛び出して、眼の前の兵士たちに襲いかかった。
+++++
(……成功した?)
モモを追って、外へ出る。青い炎が兵隊たちを次々に襲って、なぎ倒していく。モモが右手を振るう度に熟練の兵士の二、三人が青い
それがあの愛らしいモモのやったことだと理解するのに、少し時間がかかった。
(足場を展開――このまま一気に押し通る!)
青く燃えるモモから怯んだ兵士たちを視界に捉え直し、エーコは足場を展開して、中空へ一気に駆け上がる。モモの頭上まで跳躍したあと、彼女の周りの敵兵を大鎌が一気に刈り取る。
(分霊化……上手くいったみたい)
モモの隣に着地すると、モモは嬉しそうに青く燃える尻尾を振った。自分と同じような青いローブを身にまとっている。しかし指先から伸びる短刀みたいな十本の爪と空に円を描く尻尾は、『分霊』というか、吸血鬼の眷属のようだった。青い炎が身体から噴き出している。全身が『生きたい』『狩りたい』と叫んでいるよう。
「エーコ、ありがとう。これでわたしも、エーコとたたかえる!」
新たな脅威に敵兵は少し後退した。そこにモモが突っ込んでいく。モモの攻撃をかわして反撃する者には、エーコが隙間を差し込んでフォロー。
(……まだうまく制御できていないのか)
上手く戦えているように見えたが、モモの動きには無駄が多いように映った。多少なりとも迎撃することも出来ていたようだったが、本能のままに腕や尻尾をブンブン振っているだけのようだ。でもこれなら、襲われても自衛くらいは出来るだろう。エーコはモモに追いついて、
「モモ。まだ慣れていないでしょ? この辺で離脱しよう」
「エーコ……うん、わかった」
エーコはモモを背中に抱えた。モモのローブはまだ青く燃えていたけど……不思議と熱さは感じなかった。その代わりにいつもの幼い体温が伝わってくる。それに少しだけ安堵して、エーコは足場を大きく展開する。
(――大きなトランポリンを意識して、大ジャンプ)
いつもより3倍位大きな『足場』がエーコとモモを跳躍……いや、砲弾のように『発射』した。ここから更に北へ。空中でいくつも加速用の『足場』を作って、それをくぐり抜けることで、更に加速。
あっという間に、先程の宿と部隊を置き去りにして、エーコたちは窮地を脱した。
+++++
眼下に集落を見つけた。まだ日は高く、畑に出る人々が見える。どうやら安全そうだ。落下の勢いを殺して、エーコとモモは村の外れに着地した。
「っっはぁ――疲れたぁ!」
思わず声に出た。旅の疲れは昨日の爆睡で多少は回復したが、朝のゴタゴタで、また疲れがぶり返してきたようだ。ローブにしまっていた魂を3つくらい一気に頬張る。食事の挨拶や味は、この際どうでもいい。栄養補給だ。
「エーコ、おつかれさま。だいじょうぶ?」
となりのモモがエーコに触れようとして、慌てて手を引っ込めた。モモはまだ『青い狼』を解除していなかった。爪がエーコに刺さるかも知れないと思ったのかも知れない。
「……モモも、よく頑張ったね。お疲れ様」
ようやく微笑みかけられた。しかし、
「それ、すごいわね。『分霊化』ってこんな風になるのね」
改めてモモの姿をまじまじと見る。見るからに凶暴そうな左右の魔力爪に、尻尾からも殺傷力が伝わってくる。身体のローブは青く燃え上がっており、自分以外が触ると火傷どころか、燃え尽きてしまいそうだ。
「わたしも、エーコと……おそろい?」
少しドキッとした。おそろいというのは……姿の話? それとも――
「……そうね、おそろいかも。これからまた大変なこともあるでしょうけど、よろしくモモ」
「うん! エーコはわたしがまもるよ」
そう言ってほにゃっと笑うモモに、エーコは少し悲しい気持ちになった。
――今さっき、あなたもヒトを殺してしまったのよ?
自分だけが背負うはずだった罪。そして呪い。
それを、この子にも背負わせることになってしまった。北の涼しい風が吹く。無事に切り抜けられた安堵など、一緒に流れていってしまった。青く燃えていても温かな炎を目の端に捉えながら、エーコは魂の入る場所を押さえて、その場に座り込んでいた。
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