22.決着の刻
「グルッ、アアアァァァッ!」
大狐の金炎に襲われ、もがき苦しむ“死神”。
森中を暴れ回るも、それを苦しめる炎が消えることはなかった。
焼け焦げる己の肉体を見つめるその形相は、もはや敗者のそれだった。
“死神”と呼ばれ恐れられてきた、“厄災の魔物”。
それが今ここで、“母”という存在を前にして、死を迎えようとしていた。
『……無様ね、“死神”。』
そう冷たく言い放ち、大狐はとどめを刺すべく“死神”に近づく。
『…さあ、“死神”。お前の命は、ここで終わりよ。』
ゆらりと尾を揺らし、全身から黄金の炎を迸らせる大狐。
“死神”には、その姿は間違いなく、それこそ死神のように見えたことだろう。
絶望が、ありありと顔に浮かんでいた。
……だが、その時。
“死神”が、ニィと嗤った。
──まるで、この時を待っていたとでも言うように。
(っ、お母さん、離れて──)
『っ!?』
(──【絶望ヲ、力ニ】。)
──もう、遅かった。
どこからか聞こえてきたその言葉と共に、“死神”の全身から、黒い煙のようなものが噴き出した。
瘴気と呼ぶべきそれは、まるで生き物のように、うごめきながら周囲を蝕む。
そして次の瞬間、それが螺旋を描くように収束し──
『ッ……!?』
(──ぁ、っ…!!!)
──鋭い刃となって、大狐の首すれすれを、深く斜めに切り裂いた。
……眩い炎が、パチリと弾けた。
…大狐の右肩に、血飛沫が舞った。
ぐらり、と炎が揺れる。
そして、よろけるように一歩、後ずさった。
ポタリ、ポタリと。
滴り落ちる血は、まるで真紅の絵の具のように地面を染めていった。
(──っ、?)
頭が真っ白になる。 あり得ない。あの大穴を食らった“死神”が、どうしてここまでの力を…
(…力……)
その言葉は、つい先程聞いた。
絶望を、力に。
確かに、“死神”はそう言っていた。
(絶望を、力に……)
信じたくなかった。
でも、そうとしか思えなかった。
“死神”を死神たらしめるのは。
死神と邂逅した、その絶望だった。
…
『くっ、…ぁ……』
大狐が、右肩を庇うようにしてゆっくりと倒れ込む。
揺らぐ命を守るべく、金炎がその身を包んだ。
だがその炎には、先程までのような輝きも、勢いもなかった。
「グ、ルァ゛…ァ、ァァ゛……」
……“死神”が、立っている。 その肉体は炎に焼かれただけでなく、自らの出した瘴気にすら蝕まれており、もはや見る形もなかった。
しかし──それでも、立っている。
ぼろぼろのその身体を支えるものなど、もう残っていないはずなのに。
…それが、“死神”の意志そのものだった。
「……ゥァァ……ァ……ァ゛」
声にもならない呻きを漏らしながら、死神は大狐へと一歩、近づこうとする。
(やめろ…!もう、お母さんは……!)
──その時だった。
ズルリ、と。 その巨体が、崩れ落ちた。
「ガ、ァ゛………………」
歩みを進めるだけの力はもう、残っていなかったのだ。
“死神”の眼が、かすかに大狐を見据える。
……いや、もしかすると。 その奥、何か別のものを見ていたのかもしれない。
「……グ、……ゥ……」
ドロリ、ドロリと。
黒く濁った血が、大地に染みを広げていく。
そして、ついに──
──“死神”と呼ばれたそれは、動かなくなった。
+・+・+・+・+
昨日は投稿できず申し訳ございません。
m(^_ _^)m
次回、“死神”の過去のストーリーです。
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