第30話 選ぶということ

 建て前はお忍び貴族で、私たちは街の中を散策することとなった。


 私とルカだけなら辛うじてお忍び出来たかもしれないけど、背も高く体格もよく、またブルーグレイの髪に顔も良しときた公爵は予想以上み目立っていた。


 全然お忍び出来ていないけど、もうスルーよ。

 今日はルカのお買物なんですもの。


 私たちはあらかじめアーユから聞いていたおもちゃ屋さんへ。


「わぁ」

「すごいでしゅ」


 店内には木のおもちゃからお人形、模型などいろんなものが並んでいる。


 子ども連れで来ている人も多く、子どもたちはそれぞれ何が欲しいと親にねだっていた。


 思ったより物が充実しているのね。


 前はルカの欲しいものが分からなくて、アーユはルカが風邪で寝込んだ時にはくまのぬいぐるみを買ってきてくれたんだけど。


 男の子だもの、もっと模型とかそういう方が好きなんじゃないかって思うのよね。

 あとは絵本とかも買って読み聞かせさせたいし。

 

 文字を覚えるのにはちょうどいいものね。


 ルカは私の手を握ったまま、目を輝かせながら店内を眺めていた。


「ルカ、好きなものを買ってあげるから持ってきて?」

「え、え、え」

「何でもいいのよ?」

「えっと……」


 キョロキョロ辺りを見回すだけで、ルカはおもちゃに近づこうとはしない。

 

 もしかして欲しい物がないのかしら。


「欲しいモノないの?」

「んと……」


 またいつもの不安げな表情。


「何でもいいのよ?」

「ビオラ選んで欲しいでしゅ」


 どこかルカは自信なさげに眉を下げる。

 欲しいものが分からないのか、遠慮をしているのか。


 ああでも、今まで自分で何かを選ばせてもらったことがないから、そういうのが分からないのかしら。


 んー。困ったわね。

 自分の好きを見つけるのって、大切なことだと思うんだけど。


「好きなものはないのか」


 困り果てる私を察したのか、後ろで仁王立ちしていた公爵が声をかけてくる。


「ないというよりは、選べないという感じですかね」

「そうか」


 そうかって、この人私の言いたいことの意味、絶対に分かってないでしょうに。


 しかし私が次の言葉を言う前に、公爵はまたおかしなことを言い出した。


「ではこの店の全てのものを屋敷に運ばせよう」

「「えええ」」


 さすがに私とルカの言葉がかぶる。

 何考えてるの、この人。

 選べないなら全部買うって、感覚おかしいでしょう。


 もー、どうしちゃったの。

 愛情の方向、絶対間違えてるから。


「それではダメです! ルカが自分で選べなければ意味がありません」

「選べないのだろう。だったらすべて買ってしまえばよいではないか」

「どこの金持ちですか」


 ああ、金持ちだったわ。

 いや、そうじゃない。そうじゃないのよ。


 誰、この人を連れてきたヤツは。

 誰かに責任転嫁したくとも、ここには私たち三人しかいなかった。


「ルカ、このままだとこのお店のもの全部お父様が買ってしまうって言うけど、どうする?」

「それはダメでしゅ……」

「そうね。じゃあ、一個選べるかな?」


 私と公爵の顔を交互に見比べたあと、もう一度ルカはおもちゃに向きなおす。


 そしてその中から、ピンクくふわふわした翡翠色の瞳の大きなうさぎのぬいぐるみを抱えて持ってきた。


「それがいいの?」


 このうさぎ、なんか似ている気がするんだけど。


「うん。ビオラにしょっくりだから、これがいいでしゅ」

「もう」


 自分の体の半分以上もあるぬいぐるみを持つルカは、どこまでもかわいかった。


 まさか私そっくりのぬいぐるみなんてね。

 でも、やはりそれすら嬉しくて私は微笑み返した。

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