第3話 すべてが質素

 食事は病人が食べるものとしては、確かにちょうどよかった。


 味気ないスープは胃にもたれることもなく、またこの体の持ち主として食べれる量もあれくらいが限界だったらしい。


「でも、本当に美味しくはないわね。毎回これだと、さすがに嫌なんだけど」


 もうちょっと塩とか胡椒とか、はっきりした味がいいのに。

 あれではただの野菜くずの汁って感じだし。


 それに一般的にいえば、あんなの子どもの朝ご飯ですら足りないし、栄養もなく少なすぎるだろう。

 そう考えると、本当にどんな暮らしをしてきたのかと思う。


 それに気がかりなのは、あの侍女たちの態度。

 あからさまに見下すというか、バカにしているって感じだったわよね。


 今分かっているのは、この子は元王女でこの家は公爵家。

 そして嫁いできたらしいとのこと。


「元王女で、現公爵夫人でしょう? それなのにあの侍女たちの態度って、ありえないし。たとえ主従関係がうまくいってないとしても、身分は明らかにこちらの方が上じゃない」


 だいたい侍女っていうのは、使用人。

 つまり彼女たちにとって、ここ職場よね。


 別に上下関係を持ち出すつもりもないけど、雇用主がいくら公爵だからって、その夫人にしていいことではないはず。


 だけどあの感じを見ると、今までも何も言い返さなかったのかな。


「もー。分からないことだらけね。なんでそこまで……」


 この子は我慢なんてしていたんだろう。


 ここの人たちに嫌われたくなかったから?

 それともここには、誰も自分の味方がいなかったから?


「にしてもなぁ」


 それで寂しく死んでしまったら、意味ないじゃないの。


 少なくとも私は嫌だ。

 向こうに大した未練はないけど、また孤独のうちに死ぬなんて。


「死んでしまったら何も出来ないのよ。もっとも、死んだから今ここにいるんだろうけど」


 それは置いておいて、今のところ、このキャラというかこの子の名前すら分からないから、まずはそれを探らないとね。


 私は部屋の中を見渡した。

 貴族としては、かなりモノの少ない部屋。


 装飾品も最低限であり、高級そうなものは何もない。

 唯一ベッドに天蓋が付いていることと、高そうなのは絨毯くらいかな。


 でもたぶん、この絨毯はどの部屋も一緒のような気がする。

 だからわざわざこの部屋のために用意されたというより、初期装備品よね。


 歩きながらそれらを確認し、クローゼットを開けた。

 備え付けのクローゼット自体は大きいものの、その中はがらんとしている。


 中に入っていたのは、数枚のドレスと、質素なワンピースだけ。


「このドレスって、結婚前に持ってきたものかな」


 色鮮やかなドレスは、部屋にそぐわないほど豪華だ。

 宝石などがちりばめられており、おそらく夜会などで着るものだろう。


 にしても、少ない気もするのよね。

 元王女様なんでしょう?

 それなのにドレスすら、こんなにないの?


 だいたいなんていうか、この部屋もそうだけど生活感が薄いのよね。

 必要なモノすら足りていない感じ。


 んー。とりあえず着替えて外や他の使用人たちの様子を見てみるしかないわね。


 自分でも簡単に着替えられそうなワンピースを手に取り、私は一人外出の用意をする。

 日焼け止めも日傘もないことに若干困惑しつつも、仕方なくそのまま部屋を出た。

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