FILE 0050 有線放送電話

FILE0050

ある怪談朗読チャンネルに送られた投稿怪談


これは、私の祖母から聞いた話です。


祖母がまだ子どもだった頃、K市のとある町に住んでいた時のこと。

その時代は、まだ一般家庭に電話が普及しておらず、代わりに「有線放送電話」というものが各家庭に設置されていたそうです。


その電話は、地域内の通話に使われるだけではなく、スピーカーからは町内の連絡事項や緊急情報などが一斉に放送されるものでした。今のようにスマホもインターネットもない時代、人々はこの有線放送で地域の出来事を知り、共有していたのです。


K市でも、その有線放送は住民たちの生活に深く根ざしていました。

ところがある晩、祖母の住んでいた地域で、いつもと同じように流れていた放送に“異変”が起きました。


「……クチサキが現れました……」

「住人の皆様は……クチサキの言葉に耳を貸さないよう……お願いします……」


「……クチサキが現れました……」

「住人の皆様は……クチサキの言葉に耳を貸さないよう……お願いします……」


その放送は、ただそれだけを、延々と、繰り返していたのです。

何のことなのか、まるで分からない。でも、妙に淡々としたその声が……逆にたまらなく恐ろしく感じ、子どもだった祖母は、身をすくめていたと言います。


親からは、「今日は、絶対に外に出るな」と、言い聞かされ、布団の中でじっと身を潜めていたそうです。


「……クチサキが現れました……」

「住人の皆様は……クチサキの言葉に耳を貸さないよう……お願いします……」


ずっと聞こえてくる放送の最後、今まで聞こえていた男性の声ではないものを、祖母は耳にしました。


「しん■たあなた■しあわせ■す」


女の声が流れた後に、有線放送は途切れました。祖母はその声に、今まで感じたことのない寒気を覚え、しばらく布団から出ることができませんでした


……そして、その夜のこと。


祖母の同級生――Oくんが、行方不明になりました。


一緒にいたのは、Oくんの弟。彼は生まれつき、耳に障害を持っている子でした。けれど、言葉と身振りで必死に伝えていたそうです。


「変な女に、話しかけられた」

「兄ちゃんが、その人についていった」――と。


それを聞いた警察と地域の大人たちが、総出で捜索しました。でも……Oくんは、結局、見つかりませんでした。


その後、祖母はその土地を離れ、別の町へと移り住みました。

けれど……いまでも、ふとした拍子に、あの放送の声が耳に蘇るのだといいます。


「しん■たあなた■しあわせ■す」


あれは、いったい何だったのか。

Oくんは一体どこへ連れて行かれてしまったのか。

未だにわかりません。

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