第1話 張り紙
俺がその町を訪れたのは、本当に偶然だった。
色々あって俺は、地元から引っ越すこととなり、引っ越し先のアパートなどを下見に行ったついでに周辺を見て回ろうと、散策を始めたんだ。田舎でも都会でもない、微妙に古びた雰囲気の町だけど、なぜか居心地が悪くなかった。
町をぶらぶらしていたら、ある違和感に気づいた。
それは、ある一区画が見えているはずなのにその場所へ行くための道が見当たらない
どうなっているんだろうと地図アプリで、その場所を確認してみるとその区画は家と家が連なる形で、歪な楕円を描きながら並んでおり、道が分断され、町から切り離されたような場所だった。
一本の道からでないとそこへ入れない。そんな状態になっていた。
住宅地なんだろうけど、生活道路へ続く道が一本しかないって、不便すぎやしないか?興味が湧いた俺は、その場所の入口まで向かった。
入口の道路は、車が一台通れるくらいの幅で両脇にはお地蔵さんのようなものが立っていた。どちらも耳が削られているように見えた。
住宅地に入ってすぐ、ボロボロになった掲示板を見つけた。そこに、一枚だけ妙な張り紙が貼られていた。最初は行方不明者を探す張り紙かと思ったがそうではなかった。その張り紙には大きな文字で
『國岬の言葉を信じるな』
と書かれていて、その上には、ニコニコと笑っている女の写真がペタリと貼り付けられていた。雑誌の切り抜きみたいな写真だったけど、やけに不気味で笑顔なのに、どこか冷たくて、ゾッとした。
「……なんだこれ?」
俺はスマホを取り出して、その張り紙を撮影し特に意味もなく、『変な張り紙を見つけた』みたいな軽いノリでSNSにアップした。
俺はそのままその住宅地をグルっと歩き回ったが、町の至る所に張り紙が貼ってあり、壁に見たことのないマークの落書きがされていた。
しばらく歩いているうちに、人の気配が感じられない、シンと静まり返った町の雰囲気に段々居心地の悪さを覚えたので、俺はその住宅地を後にして、その日は家へと帰った。
家について、スマホで先程の書き込みを確認すると、そこそこシェアされており、
見知らぬ人物からダイレクトメールが送られていることに気づいた。
『その張り紙、どこで見つけましたか?』
送り主は、「J」という名前だった。
アイコンは風景写真、プロフィールもほとんど空白。
最初はちょっと警戒したけど、なんとなく返信してみた。
場所を教えたら、すぐに返事が来た。
『お願いがあります。その町について調べてもらえませんか?』
——え?と驚いてると、さらに詳しいメッセージが届いた。
「J」は、亡くなった父親のことを調べてるいらしい。彼の父親は昔、この町へ立ち寄った際に事件に巻き込まれたらしく、その後、亡くなったようだ
インターネットを使って情報収集をしている時に、たまたま俺の書き込みを見て、連絡してきたらしい。「J」自身は足に病気を抱えていて、遠出ができないらしく、だから代わりに俺に調査してほしい、というわけだ。もちろん、報酬も支払うと言ってきた。
……正直、めちゃくちゃ怪しいと思った。
けど、なんだろう。
あの住宅地の雰囲気、あの張り紙、「J」の話。
すべてが俺の好奇心をくすぐった。
それに、引っ越しやそれ以外にも色々と事情もあり、俺には金が必要だった。
まあ、しばらく時間はある。
俺は「J」に「わかった、調べてみる」と返信した。
数時間後、「J」からいくつかの資料が送られてきた。
古い新聞や雑誌の切り抜き、それと、いつ撮影されたのかわからないが、スーツを着た男性と、背景の壁一面に例の張り紙がびっしりと貼られている写真が添付されていた。
これが、彼の父親だろうか。
俺は、引っ越し作業などをしながら、資料を確認することにした。
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