第3話 決別
「君達はいま、ビルの外に出ることの危険性を十分に理解しているだろう、出ていった奴等は自ら危険に飛び込んだ、良く考えてみろ、あの化け物たちはイキナリ現れたんだ、またイキナリ消えてしまう可能性もあるじゃないか、それがいつになるかは判らないが、日本には警察もあるし自衛隊もある、ちゃんと政府が陣頭指揮を執れば、こんな事態はすぐに収束されるだろう!」
周りを見回し、誰も反対意見を言わないことに満足したのか話を続ける。
「出ていった奴等は後悔するだろう、自ら命を危険に晒しにいったんだからな、奴らは自分の災害用バッグを持って行ったが、ここにはまだまだ備蓄がある、ここに留まれば安全なんだ、皆理解したか?理解したら以後は私に従うように!」
言いたいことを言い、従わなかった人間の行動を非難し自身を正当化する、スッキリした表情の士来留氏、では、私もそろそろ行動を開始しましょう。
皆が改めてスマホを見たり、外の景色を確認しているなか、私は筆記用具や事務用品、予備の災害備蓄品などが保管されている保管庫の鍵を開け、中を確認します。
士来留氏のいう通り、いまの備蓄の在庫だと1人当たり10人分は割り当てることが出来ます、1人分で約3日の食料なので1か月くらいは外に出なくても何とかなりそうです。
「ふむ」
他の備品なども確認し、取り敢えず武器になりそうなモップ、贈答品の果物やケーキなどを切り分けるために置いていた包丁、ガムテープ、ごみ袋などを取り分け、自分の通勤用リュックに詰めていく、もちろん非常食や水も。
一通りここを出る準備が完了したので、そのまま無言でオフィスを後にしようとしたところ、士来留氏に見つかってしまいました。
「御堂君、どこに行こうというのだね?先ほどここに居る方が安全だと説明したばかりではないか、戻りたまえ!」
ストレスがかなり溜まっているのだろう、既に真っ赤になった顔を更に赤くしながら大声を上げてこちらを威嚇してきます。
「ああ、はいはい、私は皆さんとここに残るつもりはありません、まずこのビルですが周りが低い建物ばかりなので悪目立ちしています、そして先程空を飛ぶ化け物も確認しました。
電気や水道もいつまで使えるか判りませんし、化け物がいつ消えてくれるか、消えない可能性も考えると、このままここに居るのは危険だと判断したので1人で立て籠れる場所を探すつもりです」
「馬鹿なことを!お前も自分から危険に飛び込むつもりか!」
「士来留役員の仰ることも一理あるとは思うのですが、立て籠もるとしても最上階に住むビルオーナーもかなりの問題人物ではないですか、以前猟銃で人を脅した事件がありましたよね?
彼はビルのマスターキーを持っているので先ほどの理由に加えてここに居るのは危険だと判断したまでです」
「このビルのオーナーの
「ああ、はいはい、そうでしたね、ではお互いに道を
私が電子ロックにカードキーをかざそうとすると、後ろから山田さんが飛びつき、リュックを掴んできました。
「待って、待ってください!わ、私も、私も一緒に連れて行ってください!」
そうですね、このビルのオーナーで最上階に住む加須氏は気に入らないことがあれば暴力を振るい、自分の我を通す人物として有名であり、士来留氏と交友関係にあるということも先程知れました。
ちょっとパッとしない感じとはいえ女性である山田さんがここに残るのは猛獣の前に肉をぶら下げるのに等しいといえるでしょう。
未だに行政機関から何も公表されていないとなると、現状は警察や自衛隊を当てにすることはできません、そうなると彼らは欲望のままに好き勝手やるでしょう、山田さんには失礼ですが特に魅力的でもありませんが一応は女性です、ここに居てはとても無事に済むとは思えませんね。
「何を言っているんだ!誰か山田君を取り押さえろ!」
士来留氏がこう叫んでいることからも、彼の性欲のターゲットにされていることは明白です。
だが、残った男性社員達も士来留氏の命令を聞くわけでもなく、状況に混乱して誰も動かない、まあ、自分の意見もなく流されるだけの人達です、自分でどう動くか判断が出来ないんでしょうね。
…
…
…
私は背負ったリュックを掴まれたまま、3回ほど深呼吸をした後、背後の山田さんに問いかけた。
「山田さん、アナタ、何ができますか?体力に自信はありますか?」
「え?ああ?あ、家事、家事は得意です!た、体力は、あまり自信はありません…」
「ああ、はいはい、では仮に私がアナタを連れて行くとして、外の化け物に出くわしたときに私はアナタを守らなければいけませんか?」
「あ、はい、そ、そうしてもらえると、助かります…」
山田さんが嬉しそうな表情をしてこちらを見つめてきますが、何か勘違いしていませんかね?
「残念ですが、私にその余裕はありませんね、見捨てて良いというのであれば付いてくるのは構いませんが、外の化け物相手にアナタを守って逃げることは難しいでしょう。
アレはとてもではないですが武器も何もない人間が敵う存在とは思えません。
先程家事ができるとおっしゃいましたが、それは私でもできますし、何なら一つ星レストランに勤める知人から料理を教わっている私の方が上手でしょう、私からすればアナタを連れていくメリットはありません、残念ですがここでお別れです、サヨウナラ」
感情を込めずにそう説明すると、山田さんはリュックから手を離し、ペタンと床に座り込んでしまいました。
自分から囮になってもいいとか言われたら、喜んで連れて行きますが、まあそういうことです。
食料を調達したり、場合によっては衣服や生活用品も調達する必要があります、2人分を確保するリスクよりかは1人で行動する方が安全ですし、安心です。
先程の士来留氏の言動からもわかる通り、外の化け物も怖いですが、タガが外れた人間も恐ろしいものですから。
「ハハハ、何だお前、そういう奴だったのか、薄情だな、良かったな山田君、そんな奴に頼ることはない、ここに居たほうが安全だよ!」
士来留氏のなぜか勝ち誇ったような声を背に、私はカードキーをかざし、オフィスのドアを開けて出て行きました、エレベーターはまだ動いてますかね?
階段で降りたほうが安全でしょうか?
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