田舎道場の息子の俺がダンジョン配信で無双する件
外人だけどラノベが好き
第1話
西暦203X年。
ある日突然現れたダンジョンによって、人類の生活は大きく変わった。
突如として現れたダンジョン。
そのダンジョンの中には、人類に対して無限の悪意を持つ数多くのモンスターや敵、異世界人が存在し、人類は彼らを相手に生存のための闘争を繰り広げてきた。
では、人類の生活は否定的な方向に変わったのだろうか?
いや、人類はかつてないほどの全盛期を迎えた。
ダンジョンでのみ生産される魔石で作られた魔石スマートフォン。
魔石ノートパソコン。
魔石ドローン。
魔石は、既存の人類が持っていたバッテリー技術とは次元の違う、莫大な量のエネルギーを持っており、そのおかげで最近のスマートフォンは一度充電すれば10日は余裕で持つほどだった。
世界がそのように変わっても、変わらない場所もあった。
それは田舎の片隅にある一つの道場だった。
ダンジョンから得た技術力で「フルダイブ仮想現実」が実現してから何年も経っているにもかかわらず、この道場では未だに布で包んだ竹刀(袋竹刀)を使って稽古をしていた。
仮想現実を通じた稽古はまともな修練にならないという、師範の頑固なこだわりのためだった。
その頑固なこだわりを持つ師範の名前は、西園寺
中背よりやや高く、筋肉質の、いわゆる「おじさん」だった。
では、このおじさんが主人公なのか?
そうではない。
本当の主人公は、西園寺浩二の息子である西園寺
頑固な父親の影響で、歩き始める頃から剣を握ってきた西園寺春夜は、18歳という成人になったばかりの若さで、剣術歴が実に15年にもなるという珍しい人間になってしまった。
西園寺春夜は剣術をそれほど好きではなかったが、それでも道場には毎日通っていた。
なにしろ、その頑固な父親の支援で大学に入学しており、父親から金をもらうためには、道場の師範代としての役割を続けなければならなかったからだ。
そうだ。西園寺春夜にとって剣術とはスポーツの類ではなく、楽しいことなどでは決してなかった。
それでも西園寺春夜が剣術をする理由は、父親の家業を手伝うためだった。
「松田さん、剣の構えが違います。うちの流派の正眼は剣道とは違いますよ。もう少し斜めに剣を構えてください。山本さん、剣先をぶらさないでください」
春夜の日課は、大学に行き、講義が終わるとすぐに道場に出勤して、門下生たちの稽古を見ることだった。
東北にあるF県の小さな道場だが、父である浩二の商才があるのか、それなりに人は多い。
春夜は毎日道場の仕事を手伝い、その対価としてアルバイト代という名目の小遣いをもらっていた。
そんな平穏な日々を送っていたある日のことだったが、不幸はある日突然やってきた。
それは本当に、あまりにも突然のことだった。
いつものように早朝稽古に出かけると言って道場を出て行った父、西園寺浩二が帰ってこなかったのだ。
最初はたいしたことではないと思っていた。
父は時々、稽古が長引いたり、知人と会って一杯飲んだりして遅く帰ってくることが度々あったからだ。
しかし、昼が過ぎ、夕方になっても父は帰ってこなかった。
母と春夜は父の携帯電話に何度も電話をかけたが、返ってくるのは冷たい機械音だけだった。
不安感がじわじわと湧き上がってきた。
「父さん……どこへ行かれたんでしょうか?」
春夜の声には隠しきれない心配が滲んでいた。
母、西園寺ユリコは努めて笑顔を見せたが、彼女の眼差しもまた不安に揺れていた。
「さあね……どこかでまたお酒でも飲んでるんでしょう。明日の朝には帰ってくるわよ」
しかし、次の日の朝になっても、そのまた次の日になっても、父は帰ってこなかった。
警察に失踪届を出したが、手がかりは全くなかった。
父が使っていた剣一本を除けば、財布も、携帯電話も、すべてそのままだった。
まるで最初から存在しなかったかのように、父は跡形もなく消えてしまったのだ。
そうして不安と焦りの中で一週間が過ぎた頃だろうか。
今度は母ユリコが倒れた。
リビングで掃除をしていた母が、突然激しい痛みを訴えて床に崩れ落ちたのだ。
急いで病院に運ばれたが、医師の診断は絶望的だった。
急性で発症した希少病。
ダンジョンが現れると共に生まれた希少病で、現代医学では治療法が明確ではなく、症状を緩和し生命を維持するためには、莫大な費用がかかる特殊治療を継続的に受けなければならないというのだった。
医師が提示した治療費は、春夜が生涯で触れたこともないような大金だった。
目の前が真っ暗になった。
父は失踪し、母は生死の境をさまよっている。
そして自分には何もない。
剣術の腕? 15年間剣を握ってきたが、それがすぐに金になるわけではなかった。
家の通帳を確認したが、母の初期治療費すら賄うのが難しい状況だった。
父は道場の運営には才覚があったのかもしれないが、金を貯めることには全く才能がなかったようだ。
方法は一つしかなかった。
「……道場を売るしかない、か」
担当医との面談を終え、病院の廊下に一人たたずむ春夜は、力なく呟いた。
道場。
父の全てであり、自分の幼少期の思い出が詰まった場所。
自分がこれほどまでに逃げ出したかったのに、結局は帰るしかなかった場所。
それを自分の手で売らなければならないという事実が、心臓を痛く突き刺した。
しかし、迷っている時間はなかった。
母の命がかかっていた。
春夜はすぐに道場を売りに出した。
幸い、父が築き上げてきた名声のおかげか、あるいはダンジョン時代の好景気のおかげか、道場は思ったよりも早く売れた。
最後に、がらんとした道場に立ち、彼は壁に掛けられた『心気体一致』と書かれた掛け軸を見つめた。
父の太く力強い筆跡だった。
埃の積もった床には、まだ無数の足跡と汗の跡が残っているようだった。
彼は静かに道場の戸を閉め、背を向けた。
道場を売った金は、母の当面の急な治療費を賄ってくれたが、これから継続的にかかる莫大な治療費を賄うには、あまりにも足りなかった。
もっと金が必要だった。
莫大な金が、一刻も早く。
普通のアルバイトでは到底間に合わない。
ならば残された道は……ただ一つしかなかった。
春夜は自分の部屋に戻り、長い間壁に立てかけてあった袋竹刀を手に取った。
滑らかによく使い込まれた革の感触が手に馴染んだ。
彼は鏡の前に立ち、自分の姿を映し出した。
平凡な18歳の少年。
だが、その瞳はもはや過去の無気力で反抗的だった少年のものではなかった。
母を救わなければならないという切迫感、父の不在を埋めなければならないという責任感、そして未知の世界へ進まなければならないという恐怖と決意が入り混じった、複雑でありながら強烈な光を帯びていた。
彼は袋竹刀を鞄に入れた。
そしてその隣に、道場を売った金で用意した、最も安価だが使えそうなダンジョン用初心者向けの剣と、最低限の防具を詰め込んだ。
自分が生涯、目を背けたいと思っていた剣術。
それが今、彼の唯一の武器であり、希望だった。
(母さん、父さん。少しだけ待っていてください。道場も、母さんの健康も、必ず取り戻してみせます)
春夜は固く決意し、家を出た。
彼の足が向かった先はただ一つ。
数日前までは自分とは何の関係もない世界だと思っていた場所。
東京、新宿の地下に口を開ける、巨大なダンジョンゲートの前だった。
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