第15話 プラークラベーン

 翌日、4人は放課後、旧校舎の資料室に集まった。埃をかぶった戸棚の奥から、ミナトが見つけた記事を慎重に読み解いていく。


 「これだ」とミナトが指を止めた。「1974年。屋上で女子生徒が行方不明。最後に目撃されたのは、夕方、ガーゴイル像の近くだったって」


 「……まるで、今回と同じだね」とカナが呟く。


 ユウトはスマホで、留守電の録音を何度も聴き返していた。「この声……繰り返し何かを囁いてる。“プラークラベーン”って聞こえないか?」


 「プラー……何?」マサが顔をしかめた。


 ミナトが素早くノートに書きつける。「“プラークラベーン”——タイの伝承に出てくる、呪われた魚の精霊らしい。死者の未練を運ぶ“水の使い”って意味もあるらしいよ。日本で言えば、人魚の怨霊みたいな存在かもしれない」


 「待って、水……」カナが顔を上げた。「ガーゴイルって、雨水を流すための像だよね? もし、あの像が“何か”を運ぶために設置されたとしたら……」


 「プラークラベーンが、声を運んだ……ってことか?」ユウトが驚いた表情を浮かべる。


 マサはじっとガーゴイルの写真を見つめた。どこかの国の廃寺にあったような、不気味な意匠が施されている。「この像、誰が設置したんだ? いつからここにある?」


 その時、資料室の蛍光灯が一つ、パチンと音を立てて消えた。


 「やばい、来てるかも……」ミナトがそっとノートを閉じた。


 だがマサは震えなかった。「いいや、逃げない。もう決めたんだ。彼女の声を、ただのノイズにさせないって」


 ユウトが深く頷いた。「じゃあ、夜にもう一度、屋上に行こう。今度は準備して」


 カナが手帳に何かを書き留めながら言う。「“声を運ぶ使者”……それが本当にいるなら、私たちが“受け手”にならなきゃ」


 風が窓を叩く音がした。どこか水のような、濡れた羽音が混じっているように聞こえた。


 「プラークラベーン……」ミナトがその名をもう一度口にした。「その存在が、すべての鍵かもしれない」


 夕陽が再び校舎を赤く染め始めていた。


 そして、4人の目の前に、新たな“声”が届こうとしていた。




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