第8話 そして、始まり
七月十七日、午前七時。
僕は目を覚ました。気持ちの良い目覚めだ。隣を見てみるとヤナギさんのベッドは空だった。もう起きてるみたいだ。
顔を洗ってからなんとなく外気を吸いたくなって庭に降りてみた。日の光に当たり、朝の空気を思いっ切り吸う。……と、そこにヤナギさんがいた。
彼女は体を伸ばしたり、足を伸ばしたりしていた。柔軟体操をやってるようだ。
「おはようございます…、今日は早起きですね」
彼女は振り向いた。短く答える。
「おはよう」
朝の光を浴びたその横顔は、とても綺麗に見えた。
二人で屋敷に戻り、僕は昨日の夜言われたことを思い出していた。
『その時は──君が守ってくれると、嬉しいな』
「おいおい……そんなキャラじゃないでしょう、あなたは」
小声で呟く。それに、『何かが起きる予感』とはなんなのだろう。僕にはまるで分からなかった。
何はともあれ朝ごはんと言うことで、僕らは食堂に向かった。もう既にお客さんたちは全員揃っている……いや、白池さんの姿だけが見えない。まあ寝坊でもしてるんだろう。
「全員でそろって食べるルールですけど、皆さんを持たせる訳にはいきませんね…。どうぞ、お先に召し上がってください」
笑顔で言う鴉羽さん。なら遠慮なく食べよう。
「いただきます」
今日の朝食メニューも洋食で、カリッカリのベーコンエッグが付いていた。とても旨い。そっとヤナギさんの様子を見てみると、彼女は目玉焼きを無意味に六等分に切り分けていた。……心ここにあらずという感じだ。
食事の様子を見守っていた鴉羽さんがそわそわしだした。白池さんがあまりにも遅いのだ。昨日は時間ぴったりに席についていたのに。
……鴉羽さんは少し迷ったようだったが、食堂から出ていった。白池さんの様子を見に行くのだろう。
「あっ、っ……。きゃあああああああ!!!」
絹を裂くような叫びというのはこれのことを言うのだろう。そんな叫び声が廊下の方からしてきた。
僕は一瞬ヤナギさんと目配せする。少し迷ってから立ち上がった。廊下へ行くと、二階のとある部屋の前でへたり込んでいる鴉羽さんがいた。
「ど…どうしたんですか、何に驚いたんです」
彼女は口をぱくぱくさせるばかりで何も話せない。だが、見開いた目は開かれたドアの向こうを見ていた。
……おいおい、冗談だろ。
僕はドアの中を覗き込んだ。
そこには何かがあった。
そう、何かという表現がぴったりだろう。一瞬僕は白っぽい布に包まれた丸太が落ちているのかと思った。……でも違った。それは人だった。白っぽいシャツを着た、白池野子美さんが倒れていた。
……いや、その言い方すら正確ではない。白池さんの首には荒々しい縄目の跡があり、服には血が滲んでいた(部屋に赤い絨毯が敷いてあるので一瞬気付かなかった)。
──そして何より、彼女の右腕と左腕が無くなっていた。
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