第4話 文芸部①
――翌日。
初回の授業をいくつか受ける中、俺の気はどうにも逸っていた。
「……………ふんっ」
何度も感じる視線の主は、左隣の席に座る香澄クラウディア。
振り返ると、彼女はぷいっと鼻を鳴らして窓の方を向いてしまう。
この妙な態度の意味は、俺にはさっぱり分からない。
結局、ため息だけが漏れた。
◇ ◇ ◇
そうして放課後。
俺は一人、入部届を手に持ち、ある場所へと向かった。
校舎の一角――部室棟の奥にある一室。
扉の上には『文芸部』と書かれた表札が掲げられている。
ノックをして、そっと扉を開けた。
「――失礼します」
開けた瞬間、古紙の匂いがふわりと鼻をくすぐり、心が落ち着く。
壁際には本棚が並び、その中にはぎっしりと本が詰まっていた。
「さすがは文芸部……って、えっ!?」
視線の先、部室中央に置かれた長テーブル。
その椅子に座っていたのは――
「香澄……さん?」
そこには、なぜか隣の席の香澄さんが座っていたのだ。
正直、彼女が文芸部にいるとは思ってもいなかった。もっと華やかな部活で活躍するタイプに見えていたので、完全に意表を突かれた。
「あっ、あなたもここに!? な、なんで……というか、私がここにいて悪いわけ!?」
ツンとした態度を取られたが、それでも会話してくれたことが嬉しかった。
「えっと……香澄さんって、背も高いし美人だからさ。バレー部とかチア部とか……あとは部活のマネージャーとか、そういうイメージが……」
余計だったかもしれない。勝手な決めつけの物言いだった。
でも正直、チア部のユニフォームなんか絶対に似合うと思う。
「びび……美人!?」
「え……」
「なっ、なんでもいいでしょう! とにかく私はこの部活に入るの!」
一瞬動揺しながらも、香澄さんはテーブルの上に入部届を出した。
本気で入部するつもりらしい。
「――わあっ、新入部員!? 二人もいるじゃん! てかとんでもない美少女がいるんですけど!?」
すると、先輩と思われる人物が部室に入ってきた。
赤寄りの茶髪ボブに緑がかった灰色のインナーカラー。
首にチョーカーをつけ、大きめの眼鏡をかけた、お洒落で明るそうな女子生徒だった。
「私は二年で部長やってる
椎木先輩が軽く挨拶すると、俺と香澄さんは軽く頷いた。
椎木先輩は香澄さんの隣に座り、鞄から自分のノートパソコンを取り出す。
すると、俺と香澄さんを交互に見て、にこっと笑う。
「へぇ……なんだか二人って雰囲気似てるね」
「えっ」
どういう意味だろう。全然似てないと思うけど。
俺はつい、香澄さんの反応が気になって彼女の方を見た。……なんか、睨まれている気がする。
「ほら、なんというか、コミュニケーション苦手っぽい感じとか!?」
「初対面でめっちゃディスってきますね」
でも正直、図星だ。
俺は基本受け身の性格だし、サッカー部でもボールを介せば会話できたけど、それ以外ではあまり上手くやれていた気がしない。
香澄さんもまた、初対面の人には警戒心を見せるタイプのようで、会話もどちらかというと受け身だ。そういう点では、たしかに似ているのかもしれない。
「はは、でも当たってるだろう?」
「俺の方は……」
「――――」
椎木先輩が聞くと俺は香澄さんの方を向いた。
再び無言の圧でこちらを睨んできた。
「あと、まよせんちの子も来るからさ、皆の自己紹介はそれからにしよう」
マヨ専? どこのマヨだ。
俺はそこまでマヨネーズ派じゃない。ブロッコリーには合うと思うけど、ご飯にマヨチュチュは論外である。
そんなくだらないことを考えていた、そんな時――
ガララ、と入口の扉が開いた。
「あの……ここって、ぶんげいぶで、あってますか?」
全身ずぶ濡れの小柄な少女が、ふにゃふにゃになった入部届を手に持って立っていた。
―――――――
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