第31話 片付けの時の悪魔の誘い

宵宮悠二視点


片付けってやつは、集中しないと終わらない。だけど、本の山を整理してるとさ、ついつい手が止まるんだよ。昔読んだ雑誌とかが出てくると、懐かしさに負けてつい……なんてのは、俺だけじゃないらしい。


今、まさにその光景が広がってる。


「……あー、ふたりとも? 本題に戻らないか?」


「「あっ……」」


同時に顔を上げるな。しかも、気まずそうに笑ってんじゃない。

仲いいな、こいつら。


いやまあ、新と三津原が仲良くなるのは嬉しいよ? それはもちろん歓迎だよ?

でもさぁ、無自覚にいちゃいちゃされると、俺、どんな顔してりゃいいのさ。俺は空気か? インテリアか?


……でも、詩織が自然に笑ってるのを見るのは、やっぱ悪くない。

あの時から詩織は、どこか張り詰めてて、「触れるな危険」って雰囲気があったけど、今は違う。

こうやってまた普通の女の子みたいな顔ができるようになったってことだよな。……新のおかげか、これは。


「そ、そうだね。三津原さん、なにかいいアイデアある?」


「そうだね。こういう本って、自室にあるっていう意識があるものだから……逆に、お客さんが来るかもしれない“パブリックスペース”に置いてみたらどう?」


「それだ……! 綴の裏なら、ちょうど隠せそうだし」


お、新が目を輝かせてる。ナイスアイデアって顔だ。けどな、それは……


「……それ、昔、詩織が小鞠に内緒で買ってもらったプリンの隠し場所だったんじゃ……」


空気が凍った。


「新くん?」

「はい!!」

詩織がにこぉ……っと笑う。柔らかくて優しい声。けどその裏にあるプレッシャーがすごい。

新の顔が恐怖に歪んでるぞ想い人にする顔かあれ


「好きな方選んで貰っていいかな。梨音ちゃんか、美羽ちゃんか」


「や、やめてくれ!! 身内か彼女にバラすのは勘弁してくれぇぇ!!」


詩織の“圧”がヤバい。

 こいつ、やっぱり怒らせると本当に怖いんだよ……昔、クッキー食べたのバレた時のこと、今でも夢に出るレベルでトラウマだもん。


「悠二……悪い」


その言葉を口にしたのは、新。こいつ、まさか――


「待て……お前、俺を裏切るのか!?」


「俺も三津原さんには勝てない……。

 ……二人ともで」


「おい!! さりげなく一番最悪のルートを選ぶなぁ!!」


なんでだよ! なんで選択肢を2つ取ろうとするんだよ!

バッドエンドまっしぐらじゃねーか!!

 

……てか、口元ニヤけてんぞ新!!

そして詩織は口元を押さえてくすくす笑ってるし。こいつら絶対楽しんでるよな!?

俺が慌てるの、そんなに面白いのか!? くそ、似た者同士め!!


……でもさ。


その笑顔が、心の底からのものだって、ちゃんと分かるんだよ。

きっとそれは――俺たちが、ずっと待ち望んでた光景で。

だからまあ、こうしてからかわれるのも、悪くないって思っちまうんだよな。

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