第25話 妹からの電話

──朝宮新 視点


風呂上がり、髪をタオルで拭きながら携帯を見ると、見慣れない通知が光っていた。


「ん、着信来てたのか……よりによって綴から?」


画面に表示されたのは、実家にいる双子の妹──綴。

普段なら母経由で伝言が来るか、SNSでスタンプが連投される程度で、直に電話がくるなんて滅多にない。

だからこそ、胸の奥にじわりと嫌な予感が広がる。


「……もしもし、綴?どうしたんだ?」


『あっ、お兄ちゃん! 久しぶり!元気にしてた?』


「……ああ、元気にはしてるよ。お前は?」


『もちろん元気! それでね、夏休みなんだけど──そっちに遊びに行ってもいい?』


「……は?」


思わず間抜けな声が出る。

軽すぎる口調に、さらに不安が膨らむ。


「いや、来るのはいいけど……なんで急に?」


『えぇ~? 実の妹が久しぶりにお兄ちゃんに会いたいって言ったら、ダメなの?

あ、あとお母さんが「ちゃんと生活してるか見てきて」って頼んでたし』


「あぁ……母さんからか……」


母の名を出されると弱い。

これでほとんどの抵抗は封じられるのをわかっている。


『それでさ、今年はついに──コミケで出展資格が取れたんだよ! 応募もしたし、準備も万端!』


「……は? 出展って……」


『去年まではお母さんと一緒に参加してたけど、今年は初めて一人で出すの! だから、その間泊めてもらうね?』


「ちょ、待て! いきなりすぎるだろ!? 夏休みずっと!? 俺の生活、壊滅しないか……?」


『心配しなくていいよ~。私、静かにしてるし! あと、即売会の日は売り子お願いね!』


「つ、綴!? 俺、情報処理追いついてないんだけど!」


『あ、そうだ。お兄ちゃん、部屋はちゃんと片付けといてね? 特に──ベッドの下の本とか!』


「……ベ、ベッドの下には無いからな!!」


『ふふっ。』


「……あ。」


一瞬で察する。

言ってはいけない言葉を、言ってしまった。


『へぇ~? じゃあ、どこにあるんだろうねぇ? 他に隠してる場所があるってこと?』


「ち、違っ……! いや、そもそもそんなものは無い! 断じて無いから!!」


『あはは! 声のトーン、完全にアウト!』


「お、お前……!」


綴の笑い声が電話越しに響く。

完全に弄ばれている自覚はあるが、止められない。


『ま、部屋の片付けは任せるよ。あと、夏休みはずっといるからね?』


「はっ!? い、いや、待──」


『じゃ、おやすみー!』


「おいっ、ま──」


ぷつっ


一方的に通話は切れた。


「……綴……我が妹ながら、自由人すぎないか……?」


携帯を握りしめたまま、呆然と天井を見つめる。

あの「売り子」も、どうせ綴が趣味で描いてる同人誌即売会の手伝いだろう。

去年までは母さんが付き添っていたけど、今年は一人で挑むというのか……。


(はぁ……夏休み、嵐どころじゃ済まなさそうだ……)


ため息をつきつつも、胸の奥には少しだけ「成長したな」という誇らしさが混じっていた。


(……でも、まずいな。あの隠し場所、絶対に死守しないと……)


小さく呻くように呟き、もう一度深い溜息を吐いた。



−−−−−−−−−−−−−

お久しぶりの方はお久しぶり

はじめましての方ははじめまして

更新が途絶えていた理由なのですがリアルが忙しくほったらかしになってしまいました

かけるときに続きを書いていく感じになると思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る