第21話 触れた心の温かさ

三津原詩織視点


放課後。朝宮君と別れたあと、私はひとり、帰り道を歩いていた。


(……良かった。朝宮君に、受け入れてもらって)


胸の奥にずっと絡まっていた靄が、ようやく晴れたような気がした。

今日の空は、夕焼けが柔らかくて、風が気持ちよくて──

なぜだか、足取りもいつもより軽い。


そんな時だった。


「あれ、詩織さんじゃないですか」


後ろから聞こえてきた声に、思わず振り返る。

振り向けば、制服のままの白河梨音ちゃんがそこにいた。


「梨音ちゃん。今、帰り?」


「はい。……詩織さん、何か良いことがありましたか? いつもより楽しそうで」


「うん、そうなの! 実はね──」


思わず私は、朝宮君とのことを話し始めていた。

胸に抱えていたものが、ようやく“話していいもの”に変わったような気がして。


「……良かったですね、詩織さん」


「そうなの。小鞠にも怒られちゃったし、心配もかけたし……

梨音ちゃんにもきっと、気を遣わせてたよね。ごめんね」


「そんなことないですよ。私は、詩織さんといるの楽しいですし……

それに、以前祐二先輩とのことで相談に乗ってくれたから、恩返しのつもりだったんです。

……でも、羨ましいです」


「羨ましい?」


「はい。私たちでは、詩織さんの重荷を取れなかったのに、朝宮先輩は……」


「うん……。私、朝宮君に“もっと人を頼れるようになりたい”って言って、

“だから、もう少しだけ、そばにいてください”ってお願いしたの。そしたら──

“喜んで”って、笑って言ってくれたの」


「……えっ!?」


「どうしたの?」


「い、いえ……その……それって、どういう意味で……?」


「え? もちろん、“頼る練習”として、だよ?

朝宮君って、自然に甘えられるっていうか……安心できるから」


「な、なるほど……“そういう意味”なんですね……」


「うん。やっぱり、朝宮君って優しいね!」


「……そ、そうですね」



---


白河梨音視点


今日の帰り道、偶然詩織さんと会った。


いつもより砕けた口調で、どこか浮かれて見えた。

話を聞けば、案の定──朝宮先輩が関わっていた。


詩織さんは、昔から人に甘えるのが苦手だった。

きっと、それは家族を失って以来ずっと、誰よりも“守る側”であり続けたから。


祐二先輩も、そのことを私に相談してくれたことがある。

“どうすれば、詩織にもっと楽に生きてもらえるか”って。

私たちは、彼女にとっては近すぎたのかもしれない。


──でも、そんな彼女の心の奥に、まっすぐに踏み込んでいったのが、朝宮先輩だった。


彼は、彼女の“弱さ”を受け止めた。

それがどれほど大きなことか、私たちは知っている。


だけど……詩織さん。


あなたは、天然で鈍感で……ほんとうに罪な人です。


“そばにいてください”──

そんな言葉を真顔で言われて、どうしてそれが“頼る練習”だとしか思えないんですか。


……朝宮先輩、私は密かにあなたを応援してましたが、今はちょっとだけ同情してます。


本当に、頑張ってくださいね──


(でも……詩織さんのその笑顔が、私たちは何より嬉しいんです)

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